コラム

ヤンキース優勝パレードの隠れた目玉

2009年11月16日(月)12時42分

 僕は、ニューヨーク・ヤンキースの優勝を心から待ち望んでいた。ヤンキースの大ファンというわけではないし、言ってしまえばメジャーリーグのファンでもないのだが。「紳士的な巨人」の松井秀喜がワールドシリーズで優勝するのを見たかったわけでもない。

 実は紙吹雪が舞うパレードが見たかっただけなのだ。

コリン011109a.jpg

 幸運にも、僕は昨年NFL(全米プロフットボールリーグ)のスーパーボウル(優勝決定戦)でニューヨーク・ジャイアンツが勝ったときにもちょうどニューヨークにいて、優勝パレードではブロードウェイの南側という絶好の見学場所を確保した。

 だが、正直言ってその日は2月の凍えるような寒さ。パレード終了後に建物に入ってしまったので、さらに衝撃的なイベント、つまり「清掃作業」を見逃してしまったのだ。

 紙吹雪のパレードというのは実に素晴らしいアイデアだ。初めてニューヨークで紙吹雪パレードが行われたのは1886年。自由の女神像が寄贈された際に自然と催されたらしい。それ以来ニューヨークでは166回のパレードが行われているが、たいていは要人の訪問客や宇宙飛行士、スポーツの英雄に敬意を表するために市長が開催する。僕は2年間で2回も見られたのだからラッキーだ。その前には7年以上も開催されていなかったのだから。

 パレードは自発的な行為と組織力が絶妙に混じり合った、とてもニューヨークらしいイベントだ。ジャイアンツとヤンキースの優勝を祝う過去2回のパレードは、どちらも優勝後36時間以内に行われている。こんなに短時間で、何十万人もが駆け付けた(どうやって休みを取ったのだろう)。大事なのは、人々がルート沿いに立ち並ぶオフィスビルの窓から紙を大量に紙を撒き散らして協力することだ。

コリン011109b.jpg

 パレードが始まるマンハッタン南端のバッテリー・パークから終点のシティー・ホール(旧市庁舎)に至るまでのブロードウェイは、「英雄の渓谷(Canyon of Heroes)」と呼ばれる。両脇に高層ビルが立ち並んでいるからだ。空から舞い落ちる紙と喝采でパレードを包むには絶好の環境といえる。

 英語では紙吹雪が舞うパレードをticker tape paradeと言う。Ticker tapeとは、株式情報を金融機関に電信網で伝達し紙に印字していた時代に使われていた紙テープのこと。かつてはこれを切り刻んだものをばらまいていたのだが、今ではリサイクル会社が断裁した新聞紙を市に提供し、市が企業に配布しているらしい。

 ときどき、紙はゆっくり舞い落ちてくる。上昇気流に乗って、回転しながら美しく空に舞い上がっていくこともあれば、塊になって素早く落下したり、観客の頭に舞い降りることもある。

 そして、ヤンキースが行ってしまった後にやって来たのが僕のヒーロー――清掃係だ。パレードがとんでもない量のゴミを発生させることは、無視できない(騎馬警官による観客規制の副産物、馬の糞もしかりだ)。

 初めにやって来るのは100人くらいの「歩兵隊」で、落ち葉集めの機械で武装した彼らの仕事は紙を道路の端に寄せて積み重ねること。

コリン011109c.jpg

次に、道路の端にたまったゴミを履き出すトラックがやって来る。

コリン011109d.jpg
 
 僕は、ニューヨークは他の市よりも性能の良いトラックを手に入れるべきだと思う。これらのトラックは、路上に捨てられたリンゴの芯や、プラスチックのカップ、落ち葉を拾い集めるために作られており、1分間に数トンもの紙を集めるようには出来ていない。

 そんななか、象の鼻のような吸い込みホースが前方に取り付けられたトラックを発見した。その「鼻」は左右に揺れ動き、最もたくさんの紙が積もっている場所を軽くたたいた。

コリン011109e.jpg

最後に、クレーン車に乗った係がやってきた。彼らの仕事は、木に引っかかった紙を取り除くことだ。

コリン011109f.jpg

 2時間後にブロードウェイを歩いて帰ったときには、窓の桟など手が届かない場所に紙の断片が少し残っているだけだった。パレードに華を添えたリサイクル用紙は、再びリサイクルへの道を歩み始めた。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイ自動車生産、11月は前年比11%増 国内向け好

ワールド

英労働市場、求人減少も賃金上昇 中銀にジレンマ

ワールド

スイスの薬価上昇へ、米政権と製薬各社の引き下げ合意

ワールド

ロシア黒海沿岸でウクライナのドローン攻撃、船舶2隻
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 8
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 9
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story