コラム

「一億総中流社会」復活を阻む消費税(後編)

2015年10月19日(月)16時00分

 すなわち、イギリスの抱えている問題を解決するなら、保守党より労働党のスタンスの方が可能性は高く、そちらを支援するという判断です。そして国内の問題の非難の矛先を他者や他国にすり替えることをせず、自分達で解決するよう訴えてもいます。いずこの国も、打つ手に行き詰まると悪いのは海外とするのは一緒です。が、そこから脱却できるかどうかが、実は格差が縮小する中での経済成長を促すことにも通じるわけです。

 海外の声を良くも悪くも意識することに関連して。特定の国内産業や特定分野を真っ当な理由により、整合性の取れる範囲で最低限の保護をする必要性について否定するつもりはありません。しかしながら、例えばTPPがあろうと無かろうと、減反政策などこれまでの施策が食料安全保障や本当の意味での日本の米農家保護に役に立っているのかを含め、農業分野では見直しや改革は必要なはず。構造改革を唱える政府の経済再生本部の「産業競争力会議」がTPP参加を訴えるように、国内改革に外圧を利用したい政府の姿勢はいつの時代も見受けられます。外圧がかかって改革もやむなしとすれば「悪いのは海外」と非難の矛先を外に向けられます。

 先述のスティグリッツ氏の言葉を借りれば自由貿易協定は「関税の廃止、非関税障壁の廃止、補助金の廃止」あるのみ。TPPが仮に真の自由貿易協定であるとするなら、「補助金」の色合いが強い(前税調会長談)、「関税」と同等の役割を果たす消費税など直ちに取っ払われるべきものでもあります(ピケティ氏は欧州の付加価値税や日本の消費税は関税の側面が非常に強いとの指摘を今年1月に来日した際、2日目の日仏会館で行われたパネルディスカッションで指摘していました)。

 私の立場からしてみれば、こうした国際協定や外圧を消費税廃止など実体経済増強に向けての国内問題の解決に利用したいのは山々ではありますが、TPPの賛否を問われた際に以前からお伝えしているように、外圧によって国内改革を促すのは余りにも情けない話です。そして、この数十年に渡る日本の構造改革の失敗は自助努力によるものではなく、ひたすら外圧を盾にして実施されてきたから、という側面が多分に影響しているのではないのかとの思いが払拭できずにいます。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:関税交渉まとまらず、石破政権 参院選控え「国

ワールド

世界石油需要、20年代末まで増加 中国は27年ピー

ワールド

トランプ氏、イランの核兵器完全放棄望むと発言 米メ

ワールド

ロシア安保高官が今月2回目の訪朝、金総書記と会談=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 9
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 10
    「そっと触れただけなのに...」客席乗務員から「辱め…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 3
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story