コラム

EU、結束阻むハンガリー「封じ」に本腰...親露貫くオルバン政権に波乱の予感

2025年04月16日(水)12時15分

「2009年までは、ハンガリーの首相はロシアに対して非常に批判的でした。特にジョージア侵攻の際にはそうでした。オルバン氏の政党はウラジーミル・プーチン大統領との会談の後に、完全に方針を転換しました。あまりにも急激な変化であったため、オルバン氏の選挙運動にロシアの資金が投入されたのではないかという疑念さえ生じています」と、フランスと中欧の政治関係を専門とするマチュー・ボワドロン氏は、『ラ・デペッシュ』に語っている。逆説的なことに「ハンガリー国民の多くは親EU派です」とも述べている。

そんなオルバン首相には、国内でも逆風が吹き始めている。

2カ月前にYouTubeで公開された「王朝 オルバン家の経済帝国はいかにして誕生したか」というハンガリー語のビデオがある。オルバン一族と取り巻きに富が集中していることへの疑問や批判を描いたものだ。現在362万回再生されている(ちなみにハンガリーの人口は約960万人である)。

1カ月ほど前には英語字幕しかなかったのに、今ではスロバキア語とチェコ語の字幕も増えている

次のハンガリー総選挙は、来年2026年4月の予定である。台風の目となりそうなのが、マジャル・ペーテル氏という、44歳の野党党首の政治家だ。「EUはハンガリーを植民地化しようとしている」などとプロパガンダを張るオルバン政権とは対照的で、彼は現在、欧州議会議員で、中道右派に属している。

ロシアでは、反体制の野党党首アレクセイ・ナワリヌイ氏が極寒の獄中で死亡した。トルコでは3月下旬、レジェップ・タイップ・エルドアン大統領の最大のライバルと言われ、野党の主要人物であるイスタンブール市長、エクレム・イマモール氏が汚職容疑などで収監された。

EUのプレッシャーに国内の変化、国際刑事裁判所(ICC)を脱退するまでに追い詰められているオルバン首相。次の選挙まで1年をきったハンガリーでは、今年、何か大きな波乱がありそうだ。

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プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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