コラム

危機下のウクライナに「ヘルメット5000個」 武器提供を拒むドイツの苦悩

2022年01月29日(土)08時55分

また、アメリカでの批判も強烈だ。

1月23日に、アメリカの、こちらも保守の大手新聞『Wall Street Journal』は、「ドイツは米国の信頼できる同盟国か、Nein(=ノー)」という刺激的なタイトルでドイツを批判する意見記事を掲載。ほとんど罵詈雑言に近い内容だという。

「第二次世界大戦後のアメリカと民主主義秩序に対する、二つの最も深刻な脅威──中国とロシアに直面して、ドイツは、もはや信頼できる同盟国ではない」

「ドイツにとっては、民主的な同盟国間の連帯よりも、安いガスを持ち、中国に自動車を輸出し、プーチン氏を放っておくことのほうが重要なようだ」と、散々な言われようだ。

(ただし、ひどく非難しているのはウクライナ、そして主にウクライナの近隣である東の国々、アメリカと英国の一部である)。

問題の武器はそれほどすごいのか

それほどに問題になっている武器である。一体どんなすごい武器なのか。

なんと、ソ連製なのだという。旧東ドイツに配備されていた武器だというから、かなり古いものだろう。

それは大砲の一種で、122ミリ砲弾を20キロメートル程度発射する榴弾砲(りゅうだんほう)「D-30」なるものだ。ドイツ統一後、ベルリンが1990年代にフィンランドに輸出し、2009年にエストニアに渡ったものと、エストニア、フィンランド、ドイツの当局者は述べているという。『Wall Street Journal』の別の記事が伝えた。

自国の軍需産業を持たないエストニアや他のバルト諸国は、北大西洋条約機構(NATO)の同盟国から入手した武器をウクライナに譲渡することで、支援しようとしてきた。アメリカは、バルト三国が米国製の武器をウクライナに送ることを許可している。

この大砲に限らず、現在ウクライナが所有している戦闘機は、1970年前後のソ連製のものが多いのではという見立てがある。

ウクライナ当局は、どんな武器も切実に必要とされているのであり、エストニアが武器を我が国に送る許可がドイツから降りるなら、他の国(フィンランド等)からドイツ製・ドイツ起源のシステムをもっと送ってもらう前例となることができるだろう、と述べている。

このエストニアからの武器がウクライナに届いたとしても、戦場での力関係を大きく変えることはないと言われる。しかしドイツ批判の象徴となってしまった。

ソ連製の武器が、まわりまわって、再び旧ソ連の領域に戻って殺人に使われる......なんという恐ろしい皮肉だろうか。

歴史問題でさらに複雑に

このような批判を聞いていると、ズキズキと胸に刺さってくる。ドイツと日本が重なるからだ。とても他人事とは思えない。

いま、日本の近隣地域も、きなくささが増している。特に、台湾有事の問題が語られている。

もし同じ問題が起きたら、日本はどうするのか。日本の経済は、中国に大きく依存している。ドイツがロシアに経済やエネルギーで大きく依存しているのと同じだ。

日本は経済を犠牲にして、中国を敵にまわす覚悟があるのか、台湾に軍事協力をする覚悟があるのだろうか。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、方向感欠く取引 来週の日銀

ビジネス

米国株式市場=3指数下落、AIバブル懸念でハイテク

ビジネス

FRB「雇用と物価の板挟み」、今週の利下げ支持=S

ワールド

EU、ロシア中銀資産の無期限凍結で合意 ウクライナ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story