コラム

欧州中央銀行(ECB)が欧州独自の決済システム構築を開始

2020年01月06日(月)12時50分

ドイツ銀行、コメルツ銀行などが居並ぶフランクフルトの金融街 Ralph Orlowski-REUTERS

<世界を支配するVISA、MASTER、PayPal、GAFA等のアメリカ巨人群、そして中国の脅威から、欧州の主権を守るため>

今年のヨーロッパの動きで、今後最も注目するべきことは「汎ヨーロッパ支払いシステム計画」の始まりだろう。

欧州中央銀行(ECB)は、ヨーロッパの主権のために、以前からアメリカ等に頼らないヨーロッパ独自のシステムをつくることを希望していた。

現在の世界では、カードの決済はほとんどすべてアメリカを通している。

日本人が韓国でカードで買い物をしても、ドイツ人がフランスでしても、日本の銀行から韓国の銀行へ、ドイツの銀行からフランスの銀行へ直接情報が行くわけではない。必ずアメリカの超巨人、VISAやMASTERのネットワークを通るのである。

これに代わる欧州独自のネットワークをつくろうという計画を、欧州中央銀行が進めているのだ。今年前半には本格的に始動する予定である。

このプロジェクトの名を「PEPS-I」(汎欧州支払いシステム計画/Pan European Payment Solution Initiative)という。

フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、オランダなど、約20に及ぶヨーロッパの考えられうるすべての銀行関連の主要組織が、この計画を合同で進めている。

カードから暗号通貨まで扱える決済インフラを

計画は巨大である。現在は当然のことながら、各国によってスキームは異なり、各銀行によって管理されている。この計画を実現するには、すべての参加国、すべての銀行の共通のシステムを構築したり調和させたりする必要があるのだ。

「現時点では、ある意味、工場を建設する計画を立てているところです」とある銀行関係者は言う。「私は楽観的です。なぜなら、1年半の準備作業の後、明確な技術的障害は存在しないことがわかったからです」

銀行は、将来的には銀行カード、スマートフォン、暗号通貨などのすべてがサポートされるような、十分に柔軟性のある支払いのインフラを構築したいと考えている。

計画はいくつかの階層で構成されている。ヨーロッパの銀行間の巨大パイプ、国内のオペレーター、最後に各消費者の支払い方法。これらを瞬時につなげるものではなくてはならない。

「これは明らかにヨーロッパが管理するべき最大のプロジェクトの1つです」。

このイニシアチブの起点は、約2年前の2017年に、欧州中央銀行が発した懸念だったという。PEPSIは、技術的なイニシアチブではなく、政治的なイニシアチブから始まったのである。

2011年に、一度は「Monnet」と呼ばれる同様のイニシアチブが計画された。しかしコンセンサスと政治的な支援が不足していたので、放棄されてしまった。

昔からVISAやMASTERによる制約はあったが、近年ではApple、PayPal、Facebookなど新しいパワーが参入。これらはすべてアメリカ企業だ。

キャッシュレス決済とビッグデータ、個人情報、信用情報は、密接につながっている。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米FRB議長人選、候補に「驚くべき名前も」=トラン

ワールド

サウジ、米に6000億ドル投資へ 米はF35戦闘機

ビジネス

再送米経済「対応困難な均衡状態」、今後の指標に方向

ビジネス

再送MSとエヌビディアが戦略提携、アンソロピックに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story