コラム

欧州中央銀行(ECB)が欧州独自の決済システム構築を開始

2020年01月06日(月)12時50分

「この2年間で、将来の問題に対する見方は、大幅に変化しました」と、フランスの財務省財務局の副局長は語る。また欧州当局者は「もし我々が動かなければ、5年後には『Big Tech』(GAFAやFAANGのこと)によって、ヨーロッパは支払いの分野で、完全に外されることになるだろう」とも言う。

新しいパワーによる情報収集は、従来のVISAやMASTERよりも、はるかに精度が高い(より詳細)と言われている。

さらに、影響力を増していく中国の決済ネットワークも問題となっていた。

中国では、2002年に新しい決済ブランド「銀聯(Union Pay)」が創設されて、中国国内の銀行は銀聯カードのみの発行となった。ビザやマスターカードは外国人が持ち込んだものは使えるが、中国国内ではもう発行していない。このネットワークは中国独自のもので、今では銀聯カードは日本を始めアメリカや西欧、一部のアジアの国々で使えるものとなった。

さらに中国では、AlipayやWeChat Payといったスマホ決済が急速な勢いで普及している。9割近くの普及率という数字もある(西欧では、銀行カードのタッチ決済がよく普及している)。

秘密裡の再チャレンジ

そんな時代の変化のなか、2年前から、PEPSIは極秘裏に再度進められていた。そして重要な日付となるのは2019年11月13日。欧州中央銀行の理事会が、この戦略を奨励した。民間戦略なので名前を付けなかった。この約1週間前にAFP通信が報じた記事が、初めて計画が表に出たものと言われている。

今後は、集まった約20の組織は定期的に委員会内で会合する。そしてプロジェクトの進捗状況を、より小さい規模の銀行に通知して連絡をとりながら進めていく。

今後大きく問題となるのは、コストとデータ保護である。

コストに関しては、この計画に関与しているスペシャリストによると、正確な評価が困難ではあるが、金融機関に約50億ユーロの費用がかかる可能性があるという。「このような構築は完全に新しいものです。銀行が投資を回収できるかが、最も大きな問題となるでしょう」

さらに、データ保護の問題がある。

EUはもともとデータ保護にとても熱心である。個人データの保護は世界で一番熱心で、アメリカが見習って後を追っているほどだ。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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