コラム

「海外からのインプレゾンビは約4千件」能登半島地震から1年、データから見えてきた偽・誤情報対策の課題

2025年01月15日(水)11時19分

能登半島地震では有益な情報が多く、個人が自発的に協力していた


ここまでを整理すると次のようになる。

能登半島地震における偽・誤情報の投稿数はわずかな割合を占めるにすぎない。多くの報道では、「相次ぐ」、「多く」といった曖昧な表現を使用し、巧みに全体に対する割合として高いことを示す表現を避けていたものの、「偽・誤情報の割合が非常に多かった」という印象を与えていた。


いくつかの問題となった事例(数日後の警察の出動)は報告されているものの、深刻な被害や実害は報告されていない。総務省消防庁での開示請求で、偽の救助要請が救出活動の妨げになったという文書がないことも確認された。

偽・誤情報以外で多く閲覧されたのは災害に関するお役立ち情報、災害情報、偽・誤情報の抑止だった。災害に関するお役立ち情報や偽・誤情報の抑止は個人が発信している割合が多かった。

筆者の個人的な見解としては、この状況で偽・誤情報に焦点を当てた対策を優先することには疑問がある。どちらかというと、民間のSNS以外の救助要請を発信できる災害時の連絡手段の検討、災害に関するお役立ち情報の発信方法の検討、災害時に有益な情報を発信してくれる個人の組織化など有効な活用方法の検討などを考えた方がいいと思う。

なぜなら偽・誤情報よりも数が多いからだ。

偽・誤情報によって混乱がもたらされたというよりも、有益な情報発信が常に多数を占めた状態で個人が自発的に偽・誤情報の抑止を行っていた、という方が実態に近い。

その状態をよりよいものにしていくことが課題なのであって、偽・誤情報対策を優先して、個人による有益な情報発信や偽・誤情報の抑止をないがしろにするのは優先すべきことではないように思える。

そもそも偽・誤情報対策としてあげられているリテラシー向上というのは、正しい情報を見分け、正しい情報を共有し、偽・誤情報を抑止することだと思うのだが、それは能登半島地震ですでに起きていたことだ。

もちろん、偽・誤情報を投稿した人や拡散した人もいると思うが、全体としての割合は少なく、深刻な実害の報告もない。

現在の偽・誤情報対策は、「偽・誤情報は深刻な問題であり、緊急の対策が必要である」という認識の元に進んでいる。その認識そのものが間違っているとは言わないが、実態を把握し、それから対処を考えるべきではないだろうか?

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

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