コラム

中国政府が世界各国からデータを入手する3つの手法とは...

2022年11月14日(月)16時54分

中国はデータを戦略資源と位置づけ、さまざまな手段を用いて収集してきていた...... REUTERS/Florence Lo

<中国政府はさまざまな方法で世界各国からデータを入手しているが、大きく3つの手法を用いている......>

中国は世界各国から技術などの貴重な情報をさまざまな方法で入手している。なぜかあまり話題にならないのが、データ移転=データ・トラフィッキングである。ZOOMやTikTokの内容が中国当局に漏れていたことは有名だ(NW過去記事)。

日本ではLINEのデータが中国当局に閲覧可能であることが暴露された。そもそも中国当局は2017年の国家情報法によって中国当局は必要に応じて個人や企業などの保有するデータを入手することが可能になっている。中国国内にデータがあることが漏洩する可能性を意味している。ZOOMやTikTok、LINEはあくまで氷山の一角にすぎないのだ。それにもかかわらず、アメリカは中国へのデータ流出を防ぐための有効な対策を持っていない。

中国政府はさまざまな方法で世界各国からデータを入手している。特にアメリカはターゲットになっている。アメリカは構造的なデータ安全保障上の深刻な脆弱性を抱えているためにつけ込みやすい。その範囲は、SNSに留まらず金融、農業、ゲーム、家電、医療から宇宙までにおよんでいる。そして、それらを組み合わせて軍民で活用するとともに、AI学習用のデータセットとしても利用している。

中国の3つの手法──製品・サービ経由、出資・買収、中国市場からの圧力

アメリカに対して中国がデータ安全保障上の優位に立っていることを暴いた『Trafficking Data: How China Is Winning the Battle for Digital Sovereignty』(Aynne Kokas)が話題となっている。本書では、中国がアメリカに対して大きく3つの手法を用いていることを紹介している。製品・サービス経由、出資・買収、中国市場からの圧力である。

ZOOMやTikTokの事例は製品・サービス経由でのデータ取得である。日本でも利用者のいるiHealth、Mi Fit(Xiaomi)、Yoho Sports といったフィットネストラッカーのすべてのデータは中国のサーバーに保存されており、国家情報法に基づいて中国政府はこれらのデータを取得することができる。同じく日本でも販売されているHaier社の家電製品はBaiduのスマートIoTプラットフォームを利用し、データを収集している。また、スマートフォン経由で行われるためスマートフォンの情報も収集される。これらの商品は日本でもアメリカでもごく当たり前に購入し、利用されている。

Beijing Genomics Institute(BGI)はバイオラボを世界18カ国、58箇所保有し、検査データを蓄積している。コロナ禍でBGIは世界180カ国で3,500万人のコロナ検査を実施した。日本にもそのラボは存在する。
日本でも有名な中国企業AnkerのスマートホームブランドEufyは、ヘルストラッカーEufyLifeやセキュリティシステムEufyCamを提供。EufyCamは監視内容や時間などのデータを収集。スマホからも情報も収集している。EufyCamはMeta、グーグル、Amazonからリンクする情報を収集している。

中国国営企業ChemChinaは北米で大きなシェアを持つ農業関連管理システムAgriEdge(スイス)を買収。衛星とドローンを使ったデータ収集システムを手に入れた。世界最大のLGBTQ+コミュニティGrindrを中国企業Kunlun Tech Coが買収したことにより、このコミュニティのデータが中国当局にわたるリスクが生じている。中国製品やサービスは幅広く利用されており、ひとつひとつ数え上げるときりがない。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ユーロ圏サービスPMI、6月改定値は50.5 需要

ワールド

独サービスPMI、6月改定49.7に上昇 安定化の

ワールド

仏サービスPMI、6月改定49.6に上昇 9カ月ぶ

ワールド

韓国国会、商法改正案可決「コリアディスカウント」解
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索隊が発見した「衝撃の痕跡」
  • 3
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 4
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 5
    米軍が「米本土への前例なき脅威」と呼ぶ中国「ロケ…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    熱中症対策の決定打が、どうして日本では普及しない…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    「22歳のド素人」がテロ対策トップに...アメリカが「…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story