コラム

内部告発で暴露されたフェイスブックの管理と責任能力の欠如

2022年01月14日(金)18時50分

議事堂への暴徒乱入を招いた? REUTERS/Jonathan Ernst TPX IMAGES OF THE DAY

<META社を始めとするビッグテックはそのパワーに応じた責任を放棄している無責任の帝国と言える>

META社(旧フェイスブック社)とはなにか

『アンチソーシャルメディア』(シヴァ・ヴァイディアナサン著)によればMETA社(旧フェイスブック社)のCEOマーク・ザッカーバーグは善意に満ちているという。しかし、その善意が間違った方向へと進んでいる。シヴァ・ヴァイディアナサンの言葉を借りれば、「思い上がった善意」で世界中の民主主義と知的文化の劣化を招いたという。

そうなってしまった理由はひとえにMETA社が大きくなりすぎたためだ。企業規模の管理ではとても間に合わなくなり、いたるところで予期しない問題を引き起こし、対処に失敗し続けている。かつてはアラブの春など肯定的な面が評価されたこともあったが、じょじょにそれが制御不能の混乱を引き起こす力なのだということがわかってきた。だから2021年1月に起きたような暴徒の議事堂乱入のような事件にもなり得る。

そのパワーは留まることを知らない。2017年の段階でMETA社の無償インターネット・サービスFree Basicsがネットサービスをほぼ独占した国は60カ国におよび、多くの人々はMETA社とスポンサーのサービスだけを利用しており(それ以外は有償となる)、ニュースもそこで表示されるものを読んでいる。META社が60カ国のメディア・エコシステムを支配しているに等しい。前掲書『アンチソーシャルメディア』には、「フェイスブックの設計やアルゴリズムのわずかな変更ですら、国全体の政治的命運を変えかねないのだ」と書かれているくらいだ。

2017年10月にはカンボジア、スリランカ、ボリビア、グアテマラ、セルビアにおいてMETA社がニュース表示を変更する実験を行ったせいで、独立系ニュースサイトへのアクセスが激減し、その結果言論統制が強化される事態を起こした(The New York Times)。シヴァ・ヴァイディアナサンの言葉がおおげさではないことがわかる。その影響力はもはや1ネットサービスあるいはメディアの枠をはるかに超えている。

2018年に刊行した拙著『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)でフェイスブックはすでに国家であると指摘したが、じょじょに同様の認識が世界に広がっている。ユーラシア・グループ代表のイアン・ブレマーは2022年の10大脅威の2番目に「テクノポーラー」な世界をあげた。端的に言えばビッグテックが地政学上のアクターとなったことを指している。これがリスクにあげられているのは、そのパワーに比較して、統治能力に欠けているためだ。META社を始めとするビッグテックはそのパワーに応じた責任を放棄している無責任の帝国と言える。

そして昨年には管理統治能力の欠如とそもそもそうした責任を負う気がないことが、内部告発=フェイスブック・ペーパーで白日の下にさらされた。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

原油先物は3日続落、供給増の可能性を意識

ビジネス

「コメントしない」と片山財務相、高市政権の為替への

ビジネス

インド中銀は仮想通貨とステーブルコインに慎重姿勢=

ビジネス

全国コアCPI、10月は+3.0%に加速 自動車保
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story