コラム

世界49カ国が民間企業にネット世論操作を委託、その実態がレポートされた

2021年01月28日(木)19時00分

ネット世論操作で有名になったケンブリッジ・アナリティカCEOのアレクサンダー・ニックス 2017年 REUTERS/Pedro Nunes

<ネット世論操作の実態をまとめたオクスフォード大学のレポートが刊行された。81カ国でフェイクニュースやマイクロターゲティングなどのネット世論操作を行われているという......>

世界81カ国以上でネット世論操作が行われ、49カ国以上が民間企業に委託

この連載で何度も取り上げているようにネット世論操作は世界中で行われている。その実態をまとめた年刊が今月リリースされた。『Industrialized Disinformation 2020 Global Inventory of Organized Social Media Manipulation』(2021年1月13日)は、オクスフォード大学のThe Computational Propaganda Projectが毎年刊行しているレポートで例年だと夏か秋に刊行される。今年はえらく早い思い問い合わせたら、昨年の分がコロナなどのために遅れて今年1月の発刊になったということだった。

今年はタイトルにあるようにネット世論操作産業に焦点をあてている。レポートによれば、81カ国でフェイクニュースやマイクロターゲティングなどのネット世論操作を行われており、民間企業も多数参入しており、産業化している。

こうした民間企業にネット世論操作を委託した国は48カ国に昇る。雇用している従業員に支払われた報酬は60億円以上。この数字は少ないように聞こえるかもしれないが、このプロジェクトでは公開資料を中心に情報を収集、整理のうえ、精査している。そのため通常予想される数字よりもかなり低い数字になることが多い。つまり、民間企業にネット世論操作を委託している国は"最低でも"48カ国以上あり、従業員への報酬は"最低でも"60億円以上と考えた方がよい。個人的には数十倍以上に達していると思う。

レポートでは、イスラエルのアルキメデスグループと、スペインのEliminaliaをネット世論操作企業の例とあげていた。アルキメデスグループについてはすでに2年前にその存在が暴露されていた。筆者の知る範囲でいくつかのネット世論操作企業をご紹介しよう。

拡大するネット世論操作産業

2019年5月16日、フェイスブックがフェイスブックとインスタグラムの265のアカウントとページを削除したことを発表した。フェイスブックはイスラエルのアルキメデスグループを名指しし、ナイジェリア、セネガル、トーゴ、アンゴラ、ニジェール、チュニジアおよびラテンアメリカと東南アジアをターゲットに活動していたと指摘した。まさに世界を股に掛けた活躍ぶりである。そしておよそ1億円弱(US$812,000)の広告を出稿していた。

アメリカのシンクタンク大西洋評議会のデジタル・フォレンジックリサーチラボはアフリカにおけるアルキメデスグループのネット世論操作を分析したレポート「Inauthentic Israeli Facebook Assets Target the World」を公開した

最近ではブラジルとポルトガルで事業を展開しているネット世論操作企業の存在がデジタル・フォレンジックリサーチラボによって暴露された。2021年1月12日に公開されたレポートによれば、ネット世論操作企業AP ExataとContinental Marketingの2社がネット世論操作活動を行っており、ふたつの会社は実質的に同じだという。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

仏独首脳、米国のウクライナ和平案に強い懐疑感 「領

ビジネス

26年相場、AIの市場けん引続くが波乱も=ブラック

ワールド

米メタ、メタバース事業の予算を最大30%削減と報道

ビジネス

米新規失業保険申請、2.7万件減の19.1万件 3
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 8
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 9
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story