コラム

戦術で勝ち戦略で負ける......「作戦大成功」のイスラエルを待つ落とし穴

2024年10月08日(火)16時47分

イランとイスラエルは、どちらも目標とは反対の結果を手にすることになるかもしれない。イランはヒズボラをけしかけ、ロケット弾攻撃でイスラエルに嫌がらせをさせていたが、今や体制の存続自体が危うい。イスラエルもイランの弾道ミサイル攻撃に対する対応次第では、イランが核兵器の製造に向かう事態を招く可能性が高まる。

1年前、イスラエル領内に奇襲攻撃を仕掛けたパレスチナ自治区ガザのイラスム組織ハマスは、誘拐、集団強姦、殺人の限りを尽くし、1400人以上を殺害した。その後のイスラエル軍侵攻と無数の民間人の犠牲者、ガザの破壊、数百万人の避難民発生について、ハマスには直接的責任がある。


さらにハマスの奇襲攻撃は、サウジアラビアとイスラエルの平和条約締結を遅らせ、ヒズボラをほぼ壊滅させ、アメリカとイスラエルの同盟関係を緊張させ、イスラエルを世界の多くの国々から孤立させ、イスラエルとイランを直接軍事衝突させ、中東を地域戦争の瀬戸際に追い込んだ。

複数の国の情報機関の知人たちは、イスラエルの見事と言うしかない情報工作に驚きと称賛の声を上げた。だが、優秀な工作員や外交官は知っている。戦術上の大成功は往々にして指導者の目を曇らせ、傲慢さを招き、戦略上の政策の欠陥を覆い隠し、意図せぬ損害をもたらすと。ヒズボラ自体、1982年のイスラエルによるレバノン侵攻作戦の成功が生んだ遺産なのだ。

もう1つ、彼らは知っている。ハマスとイランの宗教指導者やヨルダン川西岸のユダヤ人入植者が敵対者の生存権と「自分たちの土地」に対する彼らの権利を受け入れない限り、中東に渦巻く憎悪がイスラエルの安全保障政策とパレスチナ人の運命を縛り続けることを。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

オープンAI、組織再編でマイクロソフトと合意 株式

ワールド

イスラエル軍がガザ空爆、20人超死亡か 米副大統領

ビジネス

エヌビディア、米エネ省向けスパコン構築へ AIチッ

ビジネス

トランプ・メディア、予測市場事業に参入へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 2
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 3
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 4
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 5
    「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する…
  • 6
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 7
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 8
    「何これ?...」家の天井から生えてきた「奇妙な塊」…
  • 9
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story