最新記事
イスラエル

崩れた信頼の再構築...イスラエル軍が挑むガザ戦争の「真の意味」

THE ‘PEOPLE’S ARMY’ AT WAR

2024年9月10日(火)14時40分
ラファエル・S・コーエン(ランド研究所上級研究員)
イスラエル軍は若さが目立つ(23年12月、ガザ地区中部のイスラエルとの境界付近で) MOSTAFA ALKHAROUFーANADOLU/GETTY IMAGES

イスラエル軍は若さが目立つ(23年12月、ガザ地区中部のイスラエルとの境界付近で) MOSTAFA ALKHAROUFーANADOLU/GETTY IMAGES

<ハマスの奇襲攻撃を許した徴兵主体の軍は国民の信頼回復に躍起>

パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム主義組織ハマスによる昨年10月の奇襲攻撃は、イスラエル軍と国民の関係を根底から揺さぶった。なにしろ、1日であれほど多くのユダヤ人の命が犠牲になったのは、ナチスドイツによるユダヤ人大虐殺以来のこと。そんな事件が起きることを許してしまったのだ。

それ以来、アメリカの多くの政府高官や議員、そして元将軍など国防関係者が、ガザへの対処方法についてイスラエルに助言を申し出てきた。


だが、その多くは無視された。理由はたくさんある。イスラエルにおける軍の位置付けは、米軍とは根本から異なる。その兵力も、アメリカのような職業軍人ではなく、徴集兵により支えられている。この点を指摘する識者は多いが、それが意味することは十分理解されていない。

イスラエル軍は、建国の父であり、初代首相であるダビド・ベングリオンが「人民の軍隊」と呼んだように、イスラエル社会を反映した構成になるよう設計されている。

これまでにも、職業軍人を中心とする軍隊に切り替えるべきかどうかをめぐり活発な議論が交わされてきた。また最高裁は6月、超正統派ユダヤ教徒にも、これまで免除されてきた徴兵を行うよう命じる判決を下した。現時点では、イスラエル軍はイスラム教ドルーズ派など、少数派も含む構成になっている。

徴兵制のおかげで、軍がイスラエル社会で特別な地位を享受している側面もある。軍に対する信頼は低下したとはいえ、2021年の時点では、ユダヤ系国民の75%以上が、軍を「非常に、またはかなり」信頼していると答えた。軍幹部はちょっとした有名人であり、退役後に政界に進出することも多い。大物軍人の葬儀はテレビ中継される。

だが、今や軍上層部には、奇襲攻撃を許した大失態を犯したという屈辱感が大きくのしかかっている。現役および退役将校と話をすると、軍が組織としてだけでなく、イスラエルという国の基礎をなす存在として「国民の信頼を回復する」必要性を語る声が聞かれる。

そのプレッシャーは、ガザ戦争へのアプローチにも影響を与えている。この戦争は軍の名誉挽回や、治安を回復することだけでなく、国家の基礎を立て直す戦いでもあるのだ。だからハマスの奇襲攻撃後、軍上層部は、ガザに大規模な地上軍を送り込みたいと考えた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

スイス・スキーリゾートのバーで爆発、約40人死亡・

ワールド

台湾総統「26年は重要な年」、主権断固守り防衛力強

ワールド

再送トランプ氏、シカゴやLAなどから州兵撤退表明 

ビジネス

ビットコイン、2022年以来の年間下落 最高値更新
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 2
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 5
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「断食」が細胞を救う...ファスティングの最大効果と…
  • 9
    日本人の「休むと迷惑」という罪悪感は、義務教育が…
  • 10
    米中関係は安定、日中関係は悪化...習近平政権の本当…
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中