最新記事
中国

米国内でのスパイ摘発が在米中国人社会に波紋...米当局の「時代遅れの対抗手段」

2024年9月9日(月)14時10分
ヤチウ・ワン(フリーダム・ハウス 中国・香港・台湾研究責任者)
中国政府の工作員として刑事訴追されたリンダ・サン(写真中央) KENT J. EDWARDSーREUTERS

中国政府の工作員として刑事訴追されたリンダ・サン(写真中央) KENT J. EDWARDSーREUTERS

<米司法省、中国政府の工作員としてニューヨーク州元補佐官を起訴...在米中国人社会に広がる不安>

米司法省は9月3日、ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事とアンドルー・クオモ前知事の元補佐官リンダ・サンを中国政府の工作員として行動した容疑で刑事訴追したと発表した。

その数週間前には、米当局が2つの別々の事件で、中国国外の民主化グループへのスパイ行為を働いたとして在ニューヨークの中国民主活動家・王書君(ワン・シューチュン)の有罪評決を引き出し、もう1人の唐元隽(タン・ユアンチュン)を起訴した。


この3件の摘発は氷山の一角にすぎない。アメリカは自国内の人権と民主主義を脅かす中国共産党の浸透工作への対応を強化している。

サンの起訴状によれば、被告は2021年から、ニューヨーク州政府での地位を利用して、旧正月を祝うホークルのスピーチから、少数民族ウイグル人に対する中国当局の重大な人権犯罪についての言及を削除するなどしたとされる。

中国共産党は習近平(シー・チンピン)国家主席の下、世界中で大規模な中国のイメージ向上キャンペーンを開始した。深刻な人権侵害の情報を遮断することは、この戦略の重要な一部だ。

私たち米人権擁護団体フリーダム・ハウスは中国共産党と関連組織がアメリカを含む30カ国で行った工作をまとめた22年の調査など、中国当局の世界的な浸透工作の実態を広範囲に記録してきた。その結果、中国は伝統的な民間外交に頼る戦術に加え、強要や汚職の疑いを含む秘密の戦術も数多く展開していることが分かった。

サンの訴追は王や唐と同様、外国代理人登録法(FARA)違反に関わるもの。同法は、外国の組織や団体のために政治活動や支援活動を行う者はその事実を公表し、司法省に登録することを義務付けている。起訴状によると、サンは登録を怠っただけでなく、中国のために働いていた事実を積極的に隠していたという。

検察当局は近年、FARAに基づく中国やその他の外国組織の取り締まりを強化しているが、フリーダム・ハウスの調査によると、まだ不十分だ。国務省がアメリカにおける中国の外交手段の一部と指定したメディア組織の中には、未登録のものもあった。登録済みでも、必要な報告や情報の提出がいいかげんだった。

一方で1938年に制定されたFARAは、時代遅れの規定が批判を浴びてきた。

「外国代理人」「外国責任者」の広すぎる定義は、外国の当局や団体のための合法的活動と違法な活動の区別がつきにくいため、合法的な国際協力や人道支援活動を手がけるNPOに過度な負担をかける可能性がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は6日続伸、日銀決定会合後の円安を好感

ワールド

韓国最高裁、李在明氏の無罪判決破棄 大統領選出馬資

ワールド

イスラエルがシリア攻撃、少数派保護理由に 首都近郊

ワールド

学生が米テキサス大学と州知事を提訴、ガザ抗議デモ巡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    フラワームーン、みずがめ座η流星群、数々の惑星...2…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中