コラム

大統領への道「勝負の100日間」ハリスの物語と夢のパワーがアメリカの命運を決める

2024年08月01日(木)18時38分

あらゆる経験的指標から見て、バイデン政権下の米経済は過去50年間で最強だ。バイデンの在任中、GDPは成長を続け、失業率は歴史的な低水準にあり、1500万件近い新規雇用が創出された。インフレ率は9%から約3%に低下し、景気の減速も失業率の上昇もなかった。

それでも国民は、インフレは重大な危機で経済は低迷していると信じ、バイデンを批判し続けている。

経済はトランプ時代よりはるかに好調だが、世論調査ではトランプや共和党のほうが経済をうまく回せると思われている。ハリスはバイデン政権に向けられた不当だがリアルな敵意から、自らを切り離す必要がある。


白人は黒人や女性に投票しない、という懸念もある。実際、共和党はそう望んでいる。ハリスが後継に指名された数時間後には、共和党の政治家から彼女の人種と性別を侮辱する声が上がった。

ハリスの現在の地位は政府の不当な黒人優遇プログラムのおかげであり、本来は無資格で無能だ──筆者は高学歴の共和党員から、そんな言葉を何度も聞いた。

共和党の副大統領候補J・D・バンスは、ハリスには子供がいないため、アメリカに「直接的な利害関係を持たない」と発言。ハリスを含む民主党の女性を「自分の人生や自分の選択に満足していない、子なしでネコ好きの女性たち」と評した。

とはいえ、ハリスには強みがある。

59歳という若さは、81歳のバイデンや78歳で肥満体のトランプと対照的だ。バイデンが撤退を表明した直後の10時間に彼女は仕事関連の電話を100件以上かけた。ハリスの登場に民主党員は熱狂し、3日間で1億2600万ドル以上の資金が集まった。

バイデンもトランプも大嫌いな「ダブル嫌い」は有権者の4分の1に上る。ハリスにはこの層の支持を得られる可能性がある。

さらに人工妊娠中絶問題は、他のどの問題よりもプロチョイス(中絶権利擁護派)の有権者を動かせるテーマだ。

国民の3分の2が中絶の権利を支持しており、最高裁が22年にその合憲性を否定して以来、中絶権を支持する民主党が選挙で勝ち続けてきた。ハリスは中絶の権利を擁護する力強いスポークスウーマンだ。

人種と性別が強みに変わる時

ハリスを弱い候補者と見なす物語の多くは、予備選開始前に撤退した20年の大統領選に起因している。彼女は元カリフォルニア州司法長官の経歴を打ち出したが、当時は民主党内の急進派が警察予算の削減を提唱して世論の反感をあおっていたタイミングだった。

現在のハリスは、大統領経験者として刑事事件で初めて有罪となったトランプを追い詰める検事のイメージを前面に打ち出している。トランプを糾弾し、責任を追及する人物を待ち望む有権者は多い。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story