コラム

五輪に投影された日本人の不安は、どこから来たものだったのか

2021年09月10日(金)15時05分

そんな世界に生きる個人は、何もかも無意味だという結論に至るのではないか。

日本のあらゆる場所のあらゆる個人が何をすべきかと悩み、「正しい」答えがないことを恐れ、独りきりで運命に対峙するハムレットになっている。

この問題は、現代主義や文化的喪失、日本国内の話にとどまらない。現代社会はどこも、無限に続く社会的変革や勝ち誇る不確実性、個人の孤立を自らの一部にしようと苦闘している。

だが現代主義に伴う不安は、個人でも、暴力でも解決できない。心理学者の研究によれば、活発な対人関係を結ぶ人は社会的に孤立した人より幸福度が高い。複数の他者と日常を分かち合う行為は、強い帰属意識や目的意識を生み出すのだ。

日本には、さまざまな文化的特性が混合した固有の歴史がある。原爆体験や福島第一原発事故、台頭する島国、個人重視の欧米的思考と調和を重んじる日本的概念の対立――。

しかし、現代日本の社会不安や疑念は普遍的なものだ。現代的な生活は700年前から、そんな困惑に満ちあふれていた。

東京五輪で露呈した不安は、パンデミックに端を発したものでも、現代日本に固有のものでもなかった。

「自分たちの庭を耕さなければ」。18世紀の啓蒙思想家ボルテールは探求と疑念、苦闘の末にそう記した。

日本(と人類全体)が陥った悲観主義を解決する道は庭のフェンスの向こうの隣人、家族や友達とささやかな出来事を共有することにある。

(※巨大スポーツイベントの未来、ゼロリスク信奉の是非、「傲慢」と「卑屈」が残した教訓......本誌9月14日号「五輪後の日本」特集では、いくつもの側面から東京五輪を振り返る)

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グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

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