コラム

「小心者よりビッチのほうがいい」米最高裁判事ギンズバーグの遺産とアメリカの試練

2020年09月28日(月)14時50分

ギンズバーグは後年、大学時代は男性が圧倒的に多い同級生を怒らせないように、自分の鋭い「知性」を抑制しなければならなかったと、折に触れて語っていた。

男性の場所を奪うつもりなのか。そう言われてきた彼女は、揺るぎない目的と、「昔ながらの」振る舞いを兼ね備えていた。

ただし、論理的思考の誤りには容赦しなかった。故アントニン・スカリア元最高裁判事は、ギンズバーグのことを「ばかげた議論をする弁護士を容易に捕まえて、骨をくわえた犬のように激しく揺さぶる」と評した。

ギンズバーグが犬と一緒に揺さぶった「骨」とは、彼女が法律の世界に入った頃には急進的と見なされていた考え──すなわち、性別に基づくあらゆる法的および文化的差別を、「才能と能力」にのみ基づく規範に置き換えることだ。

1956年、ハーバード大学ロースクールの同級生に陰で「ビッチ(あばずれ)」と呼ばれていたギンズバーグは、「小心者よりビッチのほうがいい」と返した。

彼女の後任をめぐり国を分断させている衝突は、かつてはアメリカ人の生活と法にとって急進的な変化とされ、彼女が生涯貫いてきた主張をめぐる新たな衝突でもある。それらの変化がなかったアメリカなど、現代のアメリカ人には想像もし得ない。

そして今、ギンズバーグのレガシーと後任をめぐる戦いは、アメリカの民主主義の基盤に、その継続性に、影響を与えようとしている。

<2020年10月6日号掲載>

【関連記事】トランプはもう負けている?共和党大会

20201006issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

10月6日号(9月29日発売)は「感染症vs国家」特集。新型コロナに最も正しく対応した国は? 各国の成功例と失敗例に学ぶ。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 3
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 4
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 5
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 8
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 9
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story