コラム

「小心者よりビッチのほうがいい」米最高裁判事ギンズバーグの遺産とアメリカの試練

2020年09月28日(月)14時50分

93年に米最高裁史上2人目の女性判事として就任した MARK WILSON/GETTY IMAGES

<リベラル派判事、「RBG」ことルース・ベイダー・ギンズバーグが死去。彼女の後任をめぐり国を分断させている衝突は、かつては急進的な変化とされ、彼女が生涯貫いてきた主張をめぐる新たな衝突でもある>

今年のアメリカは、疫病、山火事、暴風雨、干ばつ、洪水、そしてアメリカの民主主義を脅かす大統領選挙という政治的危機の最中にある。そこに9月18日、「RBG」の愛称を持つルース・ベイダー・ギンズバーグ連邦最高裁判所判事の死去が加わった。

慎重な判断と正確な言葉選びで知られるリベラル派の判事だった。

民主党と共和党は訃報から数時間後には、彼女の言葉とレガシーを各自の政治的な目的のために利用し、ねじ曲げ、非難合戦を始めた。大統領選と議会選挙に向けて政治闘争は悪化するばかりだろう。

ただし、争点は国の司法よりはるかに大きい。

民主党は、ギンズバーグのレガシーとこの国の民主主義の規範を守ろうとしている。

共和党は、彼女が守ってきた多くの社会的保護を覆し、少なくとも今後一世代にわたって、保守的な同党の社会的、法的、政治的支配を確立しようとしている。

ドナルド・トランプは、大統領選前にギンズバーグの後任を指名して、上院で承認される必要があると主張している。

彼は大統領選の決着は最高裁に持ち込まれると示唆した上で、「政権の移譲は起こらないだろう」とも述べた。そこには自分が勝利を強奪することを、自分が指名する後任判事が正当化するという期待が込められている。

現時点では、上院を支配する共和党主導の後任指名により、保守派が最高裁の過半数を長期にわたり確保できそうだ(最高裁判事は9人。今回リベラル派が3人、保守派が5人となった)。

一方、民主党はギンズバーグの死後5日間で、小口献金を中心に2億ドルを集めた。超党派の非営利団体が運営する有権者登録のサイトでは、19~20日の週末の登録者数が前の週末より68%多かった。全国で共和党候補を倒そうという機運が高まるかもしれない。

後任判事の最有力候補は、48歳の連邦高裁判事エイミー・コニー・バレットだ(編集部注:26日、トランプはバレットを後任判事に指名した)。

彼女は、避妊に関する女性の権利を保護する最高裁判決は「信教の自由の重大な侵害」だと主張し、人工妊娠中絶の合法化を批判。事実上の国民皆保険となるオバマケア(医療保険制度改革法)に反対している。

【関連記事】米最高裁ギンズバーグ判事の後任人事をトランプが急ぐ理由

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

FIFAがトランプ氏に「平和賞」、紛争解決の主張に

ワールド

EUとG7、ロ産原油の海上輸送禁止を検討 価格上限

ワールド

欧州「文明消滅の危機」、 EUは反民主的 トランプ

ワールド

米中が閣僚級電話会談、貿易戦争緩和への取り組み協議
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 9
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 10
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story