コラム

日本と韓国の対立を激化させたアメリカ覇権の衰退

2019年08月28日(水)18時00分

より無秩序で危険なこの国際情勢下で、日韓の対立は両国の国益だけでなく、アジアの安定も損なっている。中国が国境を越えてその力を拡大するにつれて、日韓の同盟関係はこれまで以上に重要さを増しているのに、両国はそれを台無しにした。韓国が日本の犯した75年以上前の過ちを無限に追及し続けるため、そして日本があまりに頻繁に形式的謝罪を繰り返したからだ。

韓国は過去の過ちより目の前の難題を優先すべきだ。日韓がもめて笑うのは中国と北朝鮮、実害を受けるのは日本と韓国である。

現在の日韓対立を経て、両国はよりいっそう同盟関係より自国の都合を優先するようになるだろう。韓国は北朝鮮と個別交渉を始め、西側との同盟関係を犠牲にしても、中国の勢力圏と一体化する可能性が高い。

さらに、中国の台頭とアメリカのアジアからの「撤退」の流れの中で起きた両国の対立は、アメリカの指導力に対する他のアジア諸国の警戒感を呼び起こす。集団的安全保障を脅かす対立を解決するため、日韓を仲立ちすることにアメリカは関心も能力も失いつつある。日韓が争っている間に、オーストラリアが新世代の中距離巡航ミサイルを配備したいというアメリカの要求に冷静に対応した。アジアにおけるアメリカの集団安全保障体制はほころび始めている。

おそらく韓国人も日本人も作家ウィリアム・フォークナーを読み過ぎたのだろう。フォークナーはこう指摘した。「過去は決して死なない。過ぎ去りさえしない」と。

客観的にはどう見ても同盟が必要な2国間関係で、本来は回避できるはずの対立が起き、その対立はグローバル化の本質的欠陥から生まれたナショナリズムの「毒」を体現している──。

歴史は繰り返される。今回も過去が現在を殺そうとしているようだ。

<本誌2019年9月3日号掲載>

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グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

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