コラム

「令和」の時代に日本が直面する最大の問題とは何か

2019年04月18日(木)13時30分

新しい元号に込めた意味を説明する安倍首相(4月1日の記者会見で) TOMOHIRO OHSUMI/GETTY IMAGES

<国際秩序の激変や急速な人口減少などの試練に対処し、「美しい調和」の時代を築くことができるのか>

1人の外国人の目から見ると、新しい元号に「令和」を選んだのは、安倍晋三首相らしい選択に思える。新しい時代に日本が取り組むべき課題をよく表した元号と言えそうだ。

令和という言葉には、よき伝統を大切にしつつ、因習と決別して国際秩序の激変に向き合い、調和の取れた明るい未来を切り開きたいという思いが感じ取れる。安倍は首相就任以来、変化に柔軟で創造性の豊かな社会を築こうと努めてきた。新しい時代に日本が直面する試練に対処するためには、ひたすら伝統にしがみつくだけでも、同盟国に頼るだけでも十分でないと理解しているからだ。

未来のことは誰にも分からないが、日本にとって令和がどのくらい明るい時代になるかを探る手掛かりはある。

国際戦略専門家は、国の国力を評価する際、「SPERM」という英語の頭文字で表現される5つの要素を重視する。社会(Society)、政治(Politics)、経済(Economics)、宗教(Religion)、軍事(Military)だ。「sperm」という英単語には精子という意味があるので、厳格なイスラム圏の国で講演するときにこの言葉を使うと通訳してもらえないことがあるのだが......。

以下では、この5つの要素に関して日本の未来を見ていこう。

***


社会

国力の指標の1つは、社会の一体性だ。社会で守るべき規範や国として追求する使命について、どのくらい社会で合意が形成されているかが大きな意味を持つ。

日本にはこの面で強みがある。分断や亀裂が深刻な国とは異なり、日本は社会の同質性が比較的高く、文化的・国家的な自己イメージも広く共有されている。そのため、国全体で追求する目標を設定し、それに向かって前進しやすい。社会の一体性を重んじるあまり多様性を嫌う落とし穴にはまることは避けるべきだが、国際秩序がますます混沌とする令和の時代に、日本社会の一体性は大きな強みになる。

政治

政治システムの安定性と効率性も国力の重要な要素だ。私が思うに、日本の政治の特徴は、コンセンサス重視のエリート支配型民主主義にある。

日本人の中には、ごく短期間を除いて自民党が長期間政権を握り続けていることに不満な人もいるかもしれない。しかし、社会的・政治的なコンセンサスが広く共有されていて、優秀な官僚と職業政治家、行政機関を擁している日本は、国の規模以上に強力な国になれる可能性がある。

ただし、その潜在能力を生かすには、社会的調和の代償として停滞を受け入れるのではなく、積極的に行動する意思を持たなくてはならない。

経済

言うまでもなく、日本の経済は、規模、効率性、富、テクノロジーのイノベーションに関して世界トップクラスだ。資本、労働、起業の面でも強みがある。国土の広さに関しては強気になれないだろうが、今日の経済では、国家としての柔軟性、労働力の流動性、テクノロジーのイノベーションのほうが重要になっている。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

G20首脳会議が開幕、米国抜きで首脳宣言採択 トラ

ワールド

アングル:富の世襲続くイタリア、低い相続税が「特権

ワールド

アングル:石炭依存の東南アジア、長期電力購入契約が

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story