コラム

元スパイへの神経剤襲撃にプーチンが込めたメッセージ

2018年03月23日(金)17時00分

第4に、ロシアの財界人にメッセージを発する意味もあったのかもしれない。

イギリスにおけるロシアの暗殺工作で主な標的になってきたのは、裏切った情報部員だけではない。プーチン体制に歯向かったり、体制の了承なしにマネーロンダリング(資金洗浄)をしたりしたロシアの財界人も狙われてきた。エリツィン政権下で90年代に強大な影響力を振るった政商ボリス・ベレゾフスキーと側近8人が急死したのはその最たる例だ。

第5に、ロシア人だけでなく、ロシア情報機関の西側諸国でのプロパガンダ工作や、トランプのような政治指導者周辺への浸透工作について情報を持つ非ロシア人にも警告を発しようとしたのかもしれない。

スクリパリが襲撃されたソールズベリーは、小説『蝿の王』で有名な作家ウィリアム・ゴールディングの文学の舞台だ。この小説の登場人物の1人がこんなことを言う。「恐怖心には、怖い夢と同程度の意味しかない。実際に恐れるべき獣など、この島にはいない」

だがスクリパリの事件は、この世に「恐れるべき獣」がいることを改めて思い知らせた。

<本誌2018年3月23日号掲載>

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グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

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