コラム

「体育座りは体に悪い」という記事でもっと気になったこと

2022年05月13日(金)15時33分

成長期の体育座りが話題になったが Aleksandr Koltyrin-iStock.

<時間の無駄で、一部の生徒には苦痛でしかない全校集会という前近代的な風習がまだ残っていた>

5月7日の山陰中央新報の記事が大きな話題になっていた。なんでも、成長期の学童に「体育座り」を半ば強制するのは、骨や筋肉の成長途上であることを考えても、体に悪影響大であるからやめた方が良いのではないか、というものであった。体育座りというのは、最早我々老人は忘却しているが、あの、飛行機に乗るとシートの中に挟んである「緊急姿勢」に似た、両の足を両手で抱え込んで丸まっこく座る、例のあの姿勢のことを指す。健康科学上、このような姿勢が学童にどのような悪影響を与えるかは完全に立証されていないものの、実際に腰痛などを訴える学童が多く、現実的に我々は学校を卒業して体育座りなど一度もやったことがないわけであるから、相当非日常的な座り方である。

しかしながら問題は、体育座りの是非というよりも、まだこんな前近代的な風習が学校空間で残置されていることのほうである。これは体育座りが残置されているというよりも、学童が体育座りを求められる状況、つまり全校集会や学年集会がいまの時代、まだ定期的に開催されていて、それによって生徒が体育館でこの奇妙な姿勢を強いられているという事実である。

体育座りで強制参加

全校集会......、嗚呼嫌な響きである。小・中・高で必ずこの無意味なイベントが、最低でも2週に1回はあった。これとは別に学年集会なるものがあって、これも頻繁に開催されており、ふたつを合わせると1週間に1回は体育館に動員されて我々は体育座りの姿勢でこれら集会に強制参加させられたのである。この無意味で奇怪なイベントの内容が、私はどうしても具体的に思い出せない。曰く教員の精神訓話に始まり、見学実習や修学旅行などの前になるとスケジュールの確認などを徹底させ、またぞろ締めは教員の精神訓話で終わっていた気がした。しかしそんなものは紙に印刷して頒布したりメールで閲覧させればよいだけのことで、実に無意味徒労なる儀式ではないか。令和の学童にあっては、この封建的な全校集会等などとっくに無くなっているのかと思いきや、未だに残っているのである。寧ろこちらの方に唖然の感がある。

私は高校1年(1998年)の時にパニック障害を発症した。症状レベルとしては重度であった。元々私にはアゴラフォビア(広場恐怖)があり、そこにパニック障害が重なっていたから、体育館に入るとたちまち過呼吸・動悸・発汗・平衡感覚異常・麻痺等を伴う重篤発作が起こるので、体育館にまったく行けない状態となった。問題なのは体育の授業と全校・学年集会である。体育の授業については卒業単位にかかわるので、体育担当教諭に懇切説得して、体育館わきの廊下で見学、野外の運動競技については参加ということで決着した。後者の全校・学年集会については、そもそも見学というなまじ正当な理由を作り出せないため、どのように体育館に行かなくて済むのか、ということを思案した。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 3
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 4
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 5
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story