コラム

「日本会議」は衰退するのか?──神社本庁全面敗訴の衝撃

2021年04月01日(木)19時40分


小川)神社本庁に関わらず、この手の伝統宗教勢力が「国体の破壊」などと言って大仰な抗戦姿勢を宣言することはよくあることです。原告である元職員と被告である本庁に対して、裁判所は当初、和解勧告を出していましたが、本庁側がその提案を蹴って徹底抗戦の姿勢に変更したようです。今回、本庁は完全敗訴したものの、結局は控訴するのではないか。

なぜなら控訴することによって控訴審に行き、そこでまた負けても上告審の可能性がある訳です。本庁が上告審まで争うとなれば、それこそ数年、下手をしたら十年近くの歳月が流れる場合もある。すると、本庁側の現幹部が「名実ともに完全敗北した」事実を次の幹部の代に先送りすることができるわけで、いわば敗北の希釈化・遅延戦術を狙った格好でしょう。「国体の破壊」というフレーズは、いわば"格好を付けている"様なものではないでしょうか。

なるほど、敗訴=国体の破壊とまで述べた本庁の抗戦姿勢は、特段珍しい抗戦姿勢では無いようである。本庁側が控訴するかどうかは定かではないが、今後の被告側(本庁)の動きには注目すべき点がありそうである。


「日本会議」の政治的影響力は思う程、強力ではない──ネット全盛時代に封書・FAXの古典姿勢

では一方で、今回の本庁側の完全敗訴は日本会議の影響力にどのような変化をもたらすのであろうか。結論から言って、そもそも日本会議自体には、保守業界に対し、巷間言われているような強大な影響力というモノ自体が最初から存在していない―、と筆者は思料するのである。

冒頭で述べた菅野氏の『日本会議の研究』によって日本会議が第二次安倍内閣や自民党の保守系議員の黒幕になっている―、という説は実しやかに唱えられてきたのは事実である。しかし、筆者は永年保守業界にその居を構え、いまや保守業界と合体した所謂ネット右翼の動静をつぶさに観察してきたが、日本会議の影響力はまったく大きくない、というのが正直な実感である。よって『日本会議の研究』で描かれた日本会議像は、よく調べられているとはいえ、かなり日本会議の存在を極大化して捉えているきらいがある、と思うのである。

2009年に政権党が自民党(麻生内閣)から民主党(鳩山内閣)に交代し、菅直人内閣、野田佳彦内閣を経て2012年末に第二次安倍内閣率いる自公連立政権が再び政権党に返り咲く約4年弱、保守業界(論壇)はネット右翼勢力と一体となり、共通の敵―、つまり「アンチ民主党政権」のスローガンのもとで、あらゆる中小の団体や言論人やネット右翼勢力が横断的に連携して共同戦線を張った。巨視的にみればこの時こそ、保守業界や右派、ネット右翼にとって正しく「黄金時代」が訪れたのである。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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