コラム

エヴァと私の26年

2021年04月14日(水)19時00分
アニメージュ

エヴァ本放送の最中に発行された「アニメージュ」(徳間書店)で、放送開始直後の1995年11月号(右)と放送終了直後の1996年4月号(左) 筆者撮影

<筆者の人格形成に決定的な影響を与えたエヴァンゲリオンとその時代>

報道によれば現在公開中の劇場版シン・エヴァンゲリオンが興行収入74億円を突破(4月12日付報)し、いよいよ興収100億の大台に迫らんとするものである。1995年10月から放送されたエヴァが26年目にして完結する段となって、私は感慨無量である。まだ未見の諸氏は急ぎ劇場に足を運ばれることをオススメしたい。

さて、今こうして小生がPCに向かって原稿を書き進め口に糊をする稼業になったのも、すべてがエヴァとの因ある出会いであったと言っても過言ではあるまい。私にとってエヴァは、私の青春時代の人格形成に決定的な影響を与え、この出会いが無ければ私は物書きなぞになってはいなかったであろう。主人公・碇シンジの設定と同じ14歳でエヴァに出会った私は、まず圧倒的な映像演出に度肝を抜かれた。庵野秀明監督の計算され尽くし、特撮的効果を十分に生かしたダイナミックな画面構成は、すでに前作『ふしぎの海のナディア』の時点で同業者のみならず多くのアニメファンを驚嘆せしめたものであったが、『ふしぎの~』は「南の島編」というちょっとアレな...感じの中だるみがあったので、やはり庵野演出の真骨頂はエヴァによってその完成形をみた。

「未完」のラストめぐる狂奔

エヴァにはキリスト教的世界観や哲学、軍事学、心理学、文学、歴史学、ありとあらゆる学問への窓口となる要素がちりばめられていた。テレビ版の25話、26話の衝撃的ともいえる「未完」のラストは放送当時から瞬く間に各界に衝撃を与え、この未完のラストをめぐって当時まだ黎明期であったネット空間では議論が百出し、それが1997年3月と同年7月における、所謂「旧劇場版」への熱狂的な渦となって列島を「社会現象」と言わしめるまでの興奮に包みこんでいく。このような狂奔たる熱情を原体験で知っている私の世代からすれば、昨今の『鬼滅の刃』ブームというモノはそこまで大したものではない。

地域によって差はあるが、1996年3月でエヴァのテレビ版本放送が終わるや、翌1997年初頭までの再放送によってその社会現象は加速度的に増大した。書店には所謂「エヴァ本」が氾濫した。作中にちりばめられた宗教的単語や「謎」の伏線解釈の類が山のように出た。この時私は様々なエヴァ本を耽読することとなったが、最も素晴らしいエヴァ本は兜木励悟著『エヴァンゲリオン研究序説』(KKベストセラーズ)で、これはもうエヴァの研究本というよりは軍事、歴史等々の蘊蓄本であったが大変読み応えがあった。新旧聖書もエヴァ熱にほだされて重版され、私は当時、中学校の図書館から新旧聖書を借りてきて初読に及んだのであった。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日米で真摯かつ精力的な協議続けていく=関税交渉で赤

ビジネス

焦点:25年下半期幕開けで、米国株が直面する6つの

ワールド

欧州の防衛向け共同借り入れ、ユーロの国際的役割強化

ビジネス

現在協議中、大統領の発言一つ一つにコメントしない=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 8
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story