コラム

Qアノンとは違う「日本型陰謀論」が保守派の間で蠢いている

2021年02月19日(金)18時35分

magSR20210219japaneseconspiracy-1.jpg

日本もポピュリズムと無縁ではないが、Qアノンとは異なる THOMAS PETER-REUTERS

結論として、Qアノンによる数々の陰謀論は、日本の保守派にはほとんど影響を与えていない。というより、Qアノンの主張する陰謀論自体、日本の保守派にはおおむね理解できない代物であった。

Qアノンは世界規模で活動する悪魔崇拝者や小児性愛者、児童売買に関与する秘密結社がディープステート(国家内国家)として存在し、トランプはそれと戦う前衛だと喧伝した。Qアノンは対抗馬のバイデンは無論、米民主党重鎮全般、ヒラリー・クリントンらもそれと関係があると主張した。当然これは全部ウソである。

Qアノンは、キリスト教圏で禁忌とされる悪魔崇拝(そのゆがんだ迫害の代表は中世欧州を席巻した魔女狩りである)を児童買春等と関連させて展開したが、実のところこういった陰謀論は日本の保守派には届かなかった。なぜなら日本の保守派はキリスト教について無知だからだ。

キリスト教を理解していない

日本の保守派は、そもそもキリスト教が「カトリック」「プロテスタント」「正教会」等に大別されるという認識も曖昧である。単純に「キリスト教は一神教である。対して日本は多神教であり、八百万(やおよろず)の神がおられるから日本のほうが優れている神国だ」程度にしか思っていない。

実際には、キリスト教は諸派の解釈にもよるが三位一体(父と子=キリストと聖霊)を神格とし、それ以外に人間たる「聖人」を置く。聖人は各地で尊崇の対象になっており、これはキリスト教が非キリスト教圏に浸透していく過程で、土着の多神教的価値観を包摂したものでもある。

よって、キリスト教は単なる一神教だ、というのはあまりにも幼稚な理解だ。ともかく日本の保守派はキリスト教への基礎理解を持ち得ないので、Qアノンの陰謀論をあまり理解していない。

加えて日本は、Qアノンの根底にあるキリスト教的陰謀論とそりが合わない。日本の保守派は、私の調査・分析のとおり(詳細は『ネット右翼の終わり』〔晶文社〕等に詳しい)、大都市部における中小・零細企業経営者や管理職などの中産階級が寡占的だ。

そのほとんどの宗教観が、日本の中産階級が普遍的に持ついわゆる「葬式仏教」であり、かつその大多数が公明党と創価学会を嫌悪する傾向があるからである。

なぜかと言えば、さまざまな評価があるものの、自民党(特に現在主流派閥である清和政策研究会)のタカ派的傾向(憲法9条改正や靖国公式参拝、安保法制など)に対し、連立与党である公明党は微温的に賛成しつつも、原則的にはその支持母体たる創価学会が強いアレルギーを持っているからである。

よって保守派は「安倍前総理の足を引っ張っている」として公明党と創価学会を敵視し、かつては「自公連立」を「自維(維新)連立」に組み替えるべし、という論調が大勢であった。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀、今後の追加利下げの可能性高い=グリーン委員

ビジネス

サムスン電子、第3四半期は32%営業増益へ 予想上

ビジネス

MSとソフトバンク、英ウェイブへ20億ドル出資で交

ビジネス

米成長率予想1.8%に上振れ、物価高止まりで雇用の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story