コラム

安倍政権の7年8カ月の間に日本人は堕落した

2020年08月31日(月)16時30分

しいて言えば、安倍政権7年8カ月の罪とは、こういった無味乾燥のコメンテーターや芸能人が、「報道」の領域までに跋扈してきた空気感の醸成にあろう。当然そういったコメンテーターの選定は、安倍政権に直接要請されたものではない。にもかかわらず、「私は中立です」と装いながら、実際には権力への擁護者で溢れた。私はこの状況に危機感を抱いた。

一般大衆にはこの7年8カ月で批判精神の欠如、権力への懐疑精神の喪失、中立を墓標とした権力への追従が目立った。例えば私事だが、これまで政治的には明らかにノンポリとされる人が、安倍政権下で行われる事業や企画にひとつ「噛み」だすと、途端に自分も権力者の一員となったように権力擁護に豹変しだした。何か言うと「それでも安倍さんは頑張っているんだ」と反論を逞しくする。こういった事例が私の周囲でひとつやふたつではない。事業や企画の進行と政権への評価は是々非々で行われるのが普通だが、そういった精神は消し飛んでいる。翼賛体制に近しい空気感がいよいよ瀰漫してきた。知性とは懐疑から始まる、と信じて疑わない私はこういった翼賛的同調圧力に抗っていると、2014年~2015年を境にして、私への評価は「反日・左翼」へと変貌した。

「中間管理職」の堕落

私は根っからの対米自立論者でかつ憲法9条改正論者であり、人間の理性に懐疑的で漸次的な社会改良を良しとする保守主義者である。時代が時代なれば「新右翼」に数えられていたであろう。にもかかわらず、権力への懐疑、同調精神への批判を行うとそれが即「反日・左翼」と結び付けられる風潮が開始された。このような風潮は知的堕落以外の何物でもなく、異常事態である。日本大衆全体に知性の弾力性が失われ、健全な批判精神が失われた。

これは陰謀論を逞しくするような安倍政権による指示や工作の結果ではない。日本社会の構成員たる中産・上位階級や純然たる民間放送企業が、総理官邸の指示を受けているわけでもないのに自発的に行った批判精神の喪失であり知性の堕落である。まさに丸山眞男が言った、戦中の日本型ファシズムを支えた中間階級第一類(社会の中間管理職)による負の典型が、この7年8カ月で大手をふるって氾濫したのである。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アンソロピック 、最新AIモデル巡り米政権と協議継

ワールド

米、ウラン濃縮20年停止を提案 イランとの協議で=

ワールド

仏大統領、ベネズエラ野党指導者マチャド氏と会談 民

ビジネス

消費堅調なら経済成長も維持、油価高止まりに注視も=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事の新シナリオ
特集:台湾有事の新シナリオ
2026年4月21日号(4/14発売)

地域紛争の「大前提」を変えた米・イラン戦争が台湾侵攻の展開に及ぼす影響をシミュレーション

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本は「イノベーションのやり方」を忘れた...ホンダ「EV撤退」が示す、日本が失った力の正体
  • 2
    「いい加減にして...」ケンダル・ジェンナーの「目のやり場に困る」姿にネット騒然
  • 3
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 4
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相…
  • 5
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 6
    トランプがまた暴走?「イラン海上封鎖」の勝算
  • 7
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 8
    「違法レベル...」ゼンデイヤの「完全に透けて見える…
  • 9
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 10
    BTS再始動、3年9カ月の沈黙を経て──変わる音楽市場で…
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 8
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story