コラム

緊急事態宣言を無駄撃ちしている日本政府に絶対許してはならないこと

2021年01月13日(水)16時42分

しかし4月の経験を踏まえる限り、日本のそれは緊急事態宣言とはいっても、いわゆる国家緊急権とはほど遠い、企業や商店などに対する「要請」に止まっている。公衆衛生の観点からみても、経済的自由を制限し感染を防ぐことは「公共の福祉」にかなうことだと考えられる。

懸念すべきことがあるとすれば、それは人々が緊急事態の雰囲気に訓育されてしまうことだ。4月の緊急事態宣言下では、「自粛警察」と呼ばれる、様々な事情で店を開けざるをえない商店や、必要に迫られて外出する人までも告発し、集団で攻撃する人々の姿が見られた。また、緊急事態なのだからと皆で我慢することが「国民の義務」とされ、自粛によって経済状況が厳しくなる人や企業が、正当な補償を求めることを許さない風潮が出来てしまうのならば、それは問題だろう。

しかし、早期の緊急事態宣言を求めていたリベラル・左派、あるいは立憲民主党や共産党などの政党は、緊急事態宣言による「自粛と補償はセット」として、平行して訴えている。菅政権は、来年度は持続化給付金などの補償政策を行わない予定であるが、1都3県に緊急事態宣言を出し、それが他の道府県に拡大する可能性も十分ある状況下で、これまで行われてきた補償すら打ち切るならば、国内は倒産した企業と困窮した人々で溢れかえるだろう。

それに伴い、緊急事態宣言の効果も疑われている。今回は4月のときとは違い、「自粛警察」が出てくるどころか、自粛要請に従わない人や企業が多いのではないかともいわれている。補償がないか、あっても僅かである場合は、生存のために自粛に従ってはいられない。

さらに、率先してモラルを示すべき内閣及び政府与党も、感染者の増加が抑制される見込みはなく事実上の医療崩壊がいくつかの地域で発生しているにも関わらず、会食は止められないと言い、GoToの再開やオリンピックの開催に躍起になっているのを見て、誰が状況の深刻さを受け止めることができるだろうか。

皮肉な話だが、日本の「右派」政権は、このコロナ禍においてモラルが崩壊しており、市民に自己責任を押し付けながら利権のための一貫性のない「経済的自由」を自分勝手に追及することしか出来ていない。従って、リベラル・左派のほうが、感染拡大という状況を認識し、国家の役割に期待を求めるという現象が生じている。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

独失業者数、11月は前月比1000人増 予想下回る

ワールド

東南アジアの洪水、死者241人に 救助・復旧活動急

ビジネス

ユーロ圏の消費者インフレ期待、総じて安定 ECB調

ビジネス

アングル:日銀利上げ、織り込み進めば株価影響は限定
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 7
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 8
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story