コラム

地方都市における超長期戦略 衰退シナリオからの脱却のために

2021年08月03日(火)14時30分

個人個人のヒトは、時代に合わせて適応していくため、そのときに必要な学び(教育)を受けられる場所、新しい産業のある他都市へと移動することができるが、自治体そのものは移動できない。先ほど取り上げた、加賀市のe加賀市民の制度などは、移動できない自治体と、移動できる人とを結びつける新たな仕組みでもある。

このように人口減少社会に突入している我が国の地方自治を、時代に合わせた形態に、メタモルフォーゼ(変態)すべく、内閣府が進めているスーパーシティという施策は、住民主導の規制緩和を含む今後の新たな地方自治のあり方をそのものを問うコンセプトとなっている。規制緩和は、この連載でも重視しているバックキャスティング的な発想と相性がよい。あるべき姿の未来から逆算し、必要な新たなルール整備であったり、新たなテクノロジーの登場などで、時代にそぐわなくなった法規制の緩和や、撤廃などが必要となる。
 
変化が激しい時代の中で、土木・道路インフラづくりや都市計画など、行政が中心となり、10年~20年スパンでかつて計画した内容は、テクノロジーの進化やライフスタイルの変化などで、柔軟に変更していく必要があるが、一度計画し進み始めた内容を、途中で変更することは、予算措置もふくめて非常に難しい点もある。

スーパーシティの取組では、法律上の規制緩和だけでなく、超長期プロジェクトについても、前提条件が変わってきた場合での計画変更について、柔軟に対応・変更できるルール整備など、プロセス面についても新たな取組が生まれることを期待する。

新しい公民連携の姿

地方における新たな産業モデルとして、例えばであるが、地方自治体が自らキャピタリスト(投資家)かつ初期市場の創出を行い、自らが必要とするサービスシステムを、スタートアップとともに作り出し、スタートアップが横展開し、その会社が成長する果実を分け合うようなモデルも今後はあるかもしれない。

かつての第三セクター方式は、その土地に根付いた事業や公益業務が中心であり、天下り的な使われ方も多く、見通しの甘い赤字会社を多数生み出してしまったが、次の時代に合わせた新しい公民連携事業モデルには可能性はあるだろう。

会津のアクセンチュアやソウル市のLGのように先行導入事例として民間企業に公共サービスを低コストでまかせる代わりに成功報酬やPOCの成果を他都市へ展開するなどの方法論でWinWinモデルを生み出している事例も出てきている。加賀市の多数の大企業からスタートアップを巻き込んでいるがこうしたパートナーとともに育ち、新たな地場産業づくりにつなげるような取組も期待されるところである。

地方都市の超長期戦略で必要なこと

加賀市が取り組む様々なデジタルを組み合わせた取組は、定量的評価を5年毎の国勢調査などの形などではなく、リアルタイムでの施策の効果をはかりながら、高速でPDCAサイクルや、OODAループをまわすことを可能にしている。これらも小回りの効く小規模単位の自治体が相性がよいと言えるだろう。高速で仮説検証し、行動をリアルタイムで評価しながら、改善・改良、方向転換を柔軟に行うスタイルが浸透していけば、市民が生活の実感としての変化や効果を感じることができるだろう。何よりも市民が自分毎化しなければ新しい公を作ることが難しい。

最後に地方自治体の超長期戦略実施のためのポイントをあらためてまとめると以下の5つに整理されるだろう。

1、首長の強力なリーダーシップ
2、デジタルを徹底的に活用した効率的な行政
3、ダイナミックなルールマネジメント
4、大企業からスタートアップまで巻き込んだ身軽な公民連携プロジェクトを多数生み出す
5、新しい公としての市民の自分毎化

これらを実現できれば、安定した自治とイノベーションの実現という一見困難に見える二刀流を体現する自治体が、遠くない将来に生まれてくる可能性もあるのではないだろうか。

(本稿は藤元健太郎とD4DRのシンクタンクFPRCの上席研究員早川慶朗(Andeco代表)の共著です)

プロフィール

藤元健太郎

野村総合研究所を経てコンサルティング会社D4DR代表。広くITによるイノベーション,新規事業開発,マーケティング戦略,未来社会の調査研究などの分野でコンサルティングを展開。J-Startupに選ばれたPLANTIOを始め様々なスタートアップベンチャーの経営にも参画。関東学院大学非常勤講師。日経MJでコラム「奔流eビジネス」を連載中。近著は「ニューノーマル時代のビジネス革命」(日経BP)

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