コラム

「欧州に極右台頭」は騒ぎすぎ

2010年10月13日(水)17時35分

 移民排斥を掲げるオーストリア自由党が、10日に行われたウィーン市議会選挙で躍進。欧州で極右が台頭、という懸念にまた火がついた。ウォールストリート・ジャーナル紙は次のように書く。


 90年代にイェルク・ハイダー党首の下で悪名を馳せた自由党がウィーンで27.1%を得票し、05年の14.8%から勢力を拡大した。得票を49.1%から44.2%に減らした与党・社会民主党に次ぐ最大野党だ。

 オーストリアの政界勢力図に地殻変動が起こっている。首都ウィーンは何十年も「赤いウィーン」と呼ばれてきたほど社会民主党が強い都市。それが先週の日曜には、96年以来最大の敗北を喫した。

 最近、オランダやノルウェー、スウェーデンなど欧州のあちこちで過激な政党が選挙で善戦している。極右政党に共通する外国人嫌いの主張が、景気後退で生活を脅かされ、ムスリムなどのマイノリティーが犯罪やテロをしでかし、さらには国のアイデンティティーまで奪われかねないと恐れる人々の支持を集めている。

 自由党は00年、ハイダー人気に乗って連立政権を通して国政に参加したこともあったが、ウィーンではずっとパッとしなかった。96年には27.9%の票を得たが、支持はあっと言う間に消えうせ、市政に本格参加したこともない。


 だが待てよ。何十年も前から政界の一員だった自由党が、今回96年と同じような得票をしたからといって、どこが「地殻変動」なのだろう。

■ずっと西欧民主主義の一部だった

 欧州での極右の台頭を裏付けているようにみえるデータは確かに少なくない。スカンジナビア諸国とオランダの選挙で極右が躍進したのも事実だ。だが、ヨーロッパで極右が台頭するのはこれが始めてではない。90年代後半〜00年代前半には、ハイダーのほかにもオランダのピム・フォルタイン、フランスのジャンマリ・ルペンなどが活躍した。問題は、今回の右傾化が、あの頃より長続きするのかどうかだ。もしかすると極右政党を支持する勢力は、昔から西欧民主主義の内に存在してきたが、それでも移民受け入れや欧州統合の動きを止めることができなかった勢力に過ぎない可能性もある。

 不景気の時に移民差別感情が強くなるのは驚きでもなんでもない。オランダ自由党首のヘールト・ウィルダースのようなカリスマ性のある大衆扇動政治家の手法も、はるかに洗練されてきている。かつての極右のようにあからさまにファシズムを掲げたりはせず、巧みに差別感情に訴えるのだ。

 だが、極右政党を後押ししている感情そのものは果たして新しいものなのだろうか。そしてそれはウィルダースやオーストリア自由党首のハインツ=クリスティアン・シュトラーヒェといった「人気看板」がいなくなった後も続くぐらい強く首尾一貫したものなのだろうか。疑問は多い。極右台頭と騒ぐのは、まだ早いと思う。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2010年10月11日(火)12時03分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport", 13/10/2010. ©2010 by The Washington Post. Company.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story