コラム

多重債務国ハイチの意外な債権者

2010年01月20日(水)17時01分

もう待てない 首都ポルトープランスで救援物資を求めて殺到する人々。
地震は債務返済にあえぐハイチにとって大きな痛手だ(17日)
Kena Betancur-Reuters


 アメリカやフランス、日本など19の先進国が貧しい債務国の負担軽減策を検討する非公式会合「パリクラブ」(主要債権国会議)が19日、大地震に襲われたカリブ海の小国ハイチに対する債権放棄を正式に呼びかけた。

 この画期的な試みは、遅すぎた感もある。ハイチは貧しいだけでなく借金だらけの国だ。一部の債務の起源は1820年代にまでさかのぼる。ハイチを統治していたフランスは当時、独立を承認する代償として現在の通貨価値に換算して200億ドルもの支払いを要求した。

 それ以来、ハイチは借金返済に苦しんできた。70年代から80年代に軍事独裁政権を敷いたジャンクロード・デュバリエ元大統領は、国の財政を私物化して債務を増やした。

 ハイチは借金でひどく痛めつけられている。ピーク時の負債総額はGDP(国内総生産)の3倍に当たる140億ドル。09年の利息の支払い額は年間5000万ドルで、元本返済にすら行き着かない。

 ルネ・プレバル大統領の下で統治が安定し経済が成長し始めたことから、昨年の夏、2つの団体がハイチの債務帳消しに動いた。

 6月にはIMF(国際通貨基金)の債務救済計画「重債務貧困国イニシアティブ」が、ハイチの債務19億ドルのうち12億ドルの免除を発表した。翌月にはパリクラブがそれに続き、カナダやフランス、イギリス、アメリカなど10カ国が計2億1400万ドルの債権を放棄した。

■ベネズエラからはまだ音なし

 ハイチの1人当たりGDPは約1300ドルで、バングラデシュなどと同レベル。推計5万人の犠牲者を出し、首都ポルトープランスの政府機関も経済活動も破壊し尽くした今回の地震による被害で、ハイチのGDPは少なくとも15%減ると専門家は試算している。

 パリクラブの代表を務めるクリスティーヌ・ラガルド経済財務雇用相の下、フランスは他の国々や組織に、ハイチに対する債権を放棄するよう先頭に立って呼びかけてきた。この働きかけで、通常は何年もかかる債務帳消しの手続きが迅速に進むことになる。

 それだけではない。ハイチの主要債権者である米州開発銀行と台湾、ベネズエラ両政府の3者に債権放棄を迫る圧力にもなっている。

 ハイチはベネズエラに1億6700万ドル、台湾に9100万ドルの債務を負っている。台湾の馬英九総統は19日、債務帳消しに前向きな姿勢を示した。「困難な状況に陥ったハイチを助けるため、必要な措置を検討するよう外交部(外務省)に呼びかけた」と馬は言う。ベネズエラのウゴ・チャベス大統領はこれまでのところ動きを見せていない。

 米州開発銀行は昨年5億1100万ドルの債務を帳消しにしたが、まだ4億4000万ドルが残っている。同銀行は今週、1億2800万ドルの供与を承認。理事会では、さらなる債権放棄が検討されている。

──アニー・ラウリー
[米国東部時間2010年1月19日(火)13時36分更新]


Reprinted with permission from FP Passport, 19/01/2010. © 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ウォルマート、8―10月期は予想上回る 通期見通

ビジネス

米9月雇用11.9万人増で底堅さ示唆、失業率4年ぶ

ビジネス

12月FOMCで利下げ見送りとの観測高まる、9月雇

ビジネス

米国株式市場・序盤=ダウ600ドル高・ナスダック2
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 6
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story