コラム

イスラム指導者「ドイツではテロ禁止」

2009年11月04日(水)18時14分

 過激なイスラム教思想家ではアルカイダの指導者ビンラディンを批判したサイード・イマム・アル・シャリフばかりが称賛されるが、このほど、もう一人の重要なイスラム原理主義指導者モハメド・アル・フィザジが、ヨーロッパでのテロを非難する手紙を7月に書いていたことが明らかになった。

 アル・フィザジは今、モロッコで服役中だ。45人が犠牲になった03年のカサブランカ連続自爆テロ事件に関与したとされている。そのアル・フィザジが、ドイツのハンブルクに住む娘に宛てて書いた手紙の翻訳版を、独シュピーゲル誌電子版が入手し、掲載した。

 それによればアル・フィザジは、ドイツのイスラム教徒は宗教的自由にも雇用機会にも恵まれているとドイツを絶賛。感情も露わなある一節では、「(アンゲラ・メルケル)首相は偉大だ」とまで記している。

 アル・フィザジは、イスラム教徒がドイツをはじめとする欧州でジハード(聖戦)に訴えることは許されず、居住国の法律に従わなければならないと説く。それが、イスラム教徒の希望を叶えてくれた国との契約だというのだ。

「ドイツは戦場ではない」と、彼は書く。そこでテロを行うことは、「イスラム教徒はハンブルクの街より(ビンラディンが潜伏していたような)洞窟のほうがふさわしい愚かな未開人の集団だという偏見を煽る行為だ」。

 一般論で言えば、アル・シャリフであれアル・フィザジであれ、イスラム教思想家の抽象的な理屈がジハードの戦士たちの行動に影響を与えるとは思えない。戦士たちの動機は政治的自由や経済的な機会など、もっと現世的な利益にあるからだ。

 だがアル・フィザジの手紙が面白いのは、ドイツにはまさにそうした自由や機会があるからこそ、イスラム教徒はテロを禁じられると主張していることだ。つまり欧州は、一般に考えられているよりイスラム教徒の融合に成功しているということだ。

 こうした進歩は西側諸国にとっては朗報だが、世界中のイスラム過激派にとっては逆風になる。

──デービッド・ケナー
[米国東部時間2009年11月03日(火)14時43分更新]


Reprinted with permission from "FP Passport", 4/11/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ全域で通信遮断、イスラエル軍の地上作戦拡大の兆

ワールド

トランプ氏、プーチン氏に「失望」 英首相とウクライ

ワールド

インフレ対応で経済成長を意図的に抑制、景気後退は遠

ビジネス

FRB利下げ「良い第一歩」、幅広い合意= ハセット
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 10
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story