最新記事

東南アジア

爆発寸前のパプア紛争、「悪魔の部隊」による報復作戦が始まる

Another Papuan Incursion

2021年5月12日(水)19時25分
セバスチャン・ストランジオ
インドネシア軍兵士(2018年12月)

2018年12月、独立派による銃撃事件が起きたパプアに急行する兵士たち IWAN ADISAPUTRAーANTARA FOTOーREUTERS

<国の情報機関トップの暗殺を契機に、独立派を「テロ組織」指定。軍の出動による弾圧強化が始まった>

インドネシア政府は紛争が続く東部のパプア州で軍のプレゼンスを強化している。4月末に1カ月間の特殊訓練を終えた精鋭部隊「第315歩兵大隊」の兵員400人がパプアに向かったと、地元メディアが5月2日に伝えた。第315歩兵大隊は「悪魔の部隊」の名で知られ、東ティモールやアチェ州の紛争でも分離独立派と戦ってきた。

今回の派遣のきっかけになったのは、軍高官の暗殺だ。4月25日に情報機関の現地支部を率いるグスティ・プトゥ・ダニー・ヌグラハ准将が武装勢力の待ち伏せ攻撃で殺害された。

グスティは分離独立派の攻撃が相次いだパプア州中部のプンチャック県を視察中に襲撃された。事件後、分離独立組織「自由パプア運動」の軍事部門「西パプア民族解放軍」が犯行声明を出した。

治安当局は分離独立派に激しい報復攻撃を加えるだろう。ジョコ・ウィドド大統領率いるインドネシアの現政権は即座に報復を誓い、関与した全ての反政府分子を「追跡し逮捕する」よう警察と軍に命じた。「パプアには武装組織が存在できる場所はないと、改めて強調したい」と、ジョコは述べた。

独立派武装組織をすべて「テロ組織」指定

パプア州の州都ジャヤプラでは4月30日からインターネットが使えなくなっている。2019年8~9月にパプアで抗議デモが広がり死者が出たときも政府はネット接続を切断した。今はネットに加え、携帯電話も使えなくなっているとの情報もある。

インドネシア東端のニューギニア島に位置し、パプアニューギニアと国境を接するパプア州は1960年代にインドネシアに編入されて以来、分離独立の動きが絶えない。

ここ何年かは特に緊張が高まり、過去3年間にパプアに送り込まれた国軍の兵士は2万1000人超。今回の派遣もそれに続くものだ。

緊張の高まりを示す兆候はまだある。インドネシアの安全保障・政治・法務調整相モハメド・マフッドはグスティ暗殺を受け、パプアの独立派武装組織を全て「テロ組織」に指定した。今や国内メディアの多くがパプア独立派を「犯罪組織」と呼んでいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、台湾への武器売却を承認 ハイマースなど過去最大

ビジネス

来年のIPO拡大へ、10億ドル以上の案件が堅調=米

ビジネス

英中銀、5対4の僅差で0.25%利下げ決定 今後の

ビジネス

ノバルティスとロシュ、トランプ政権の薬価引き下げに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中