コラム

マイケルをスパイした秘密警察

2009年08月03日(月)15時19分

 マイケル・ジャクソンは初めて違法行為(児童虐待)を疑われた93年の5年前、冷戦時代のベルリン周辺でコンサートを開くミュージシャンのなかで最も人気があった。最も人気があったからこそ、「ロックンロールが象徴する西側の退廃」(おそらくアンプの音が大きすぎることだろう)に東ドイツ国民の関心を向けさせる可能性が高かった。そこで東ドイツ秘密警察はマイケルをスパイせざるを得ないと考えた。  


 ドイツの大手紙ビルトがスクープした秘密警察「シュタージ」の文書によると、シュタージは「若者はブランデンブルク門付近で行われるこのコンサートを体験するためにいかなる行動も取りかねない」と懸念していた。さらに「一部の若者は(この機会を利用して)警察との衝突を引き起こそうとたくらんでいる」としている。


 もっとも、民主化運動におけるロックの役割はそれまでに十分に証明されていた。68年にチェコスロバキアで起きた自由化運動「プラハの春」がそうだった。マイケルが西ベルリンに来る1年前には、デビッド・ボウイとジェネシスのコンサートを壁越しに聞こうとする東ドイツの音楽ファンが警察と衝突していた。マイケルのムーンウォークの威力をもってすれば、若者が何をしでかすか分からなかっただろう。そうだ、ベルリンの壁を崩壊させたかもしれない......あ、実際に崩壊させたんだった

 ところで、マイケルはそこでベルリンと縁が切れたわけではなかった。14年後、ベルリンのホテルのバルコニーで、(窓から赤ん坊をぶら下げて)自分が完全にいかれていることをきっぱりと証明して見せたのだ。

──ジェームズ・ダウニー
[米国東部時間2009年07月31日(金)17時03分更新]


Reprinted with permission from FP Passport, 3/8/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

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国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

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