コラム

遠藤誉から、大陸へのメッセージ

2016年10月04日(火)13時41分

 だが、おかしいじゃないかと。どうして、苦しんでいる人民のために新中国を建設すると言っておきながら、自国の民を飢え死にさせて知らん顔しているのか。建国後には、もう平和になったというのに何千万という自国の人間の命を犠牲にした。餓死させたり、文化大革命で互いに戦わせたり、投獄したりという形で死なせてしまった。平時に自国民をここまで死なせる指導者というのは、いったいどんな人間なのか。自分の人生の戦いの一環として、毛沢東よ、あなたは何者なんだ。何をしてきたんだ、なぜこんなことをしたんだ、という問いかけのようなものが心の中にあった。

 今回、毛沢東について書いてほしいと言われて、「毛沢東って誰?」というところから書くことにした。そして、抗日戦争を勇猛果敢に戦ったという部分に差し掛かったときに、待てよと。色々な資料を読んでいくうちに、矛盾することが見つかった。中国では、(中国側のスパイ)潘漢年(ハン・カンネン)は日本から色々な情報を取り入れて毛沢東に渡して、毛沢東が非常に勇猛果敢に日本軍と戦えるようにした人物として位置付けられている。ではなぜその潘漢年を毛沢東は逮捕して、口を封じなければならなかったのか。日本軍から情報をもらった潘漢年が、なぜ(日本側から)情報提供料をもらわなければならないのか。整合性がないと思い、すべての資料を徹底的に調べていくうちに、彼が接触した外務省の岩井英一氏の回想録を見つけた。その結果、ようやく謎が解けた。潘漢年はなんと、日本軍と共謀していたのではないか、と。

 それが分かったことで、私がずっと生涯抱えてきた何十万もの人を餓死させた毛沢東に対する非常に複雑な恨み、私の人生を返してくれ、私の父の苦しみを返せ、という憤りが消えてしまった。ここまでのことをやる人間ならば、何十万もの人を餓死させることなど彼にとっては小さなことに過ぎなかったのだろうと。自分が帝王になるためならどんなことでもやる、手段を選ばない人間だ、と。それを初めて知ることによって、長春で餓死した人たちに対して生涯をかけて抱いてきたこだわりというのが、初めて消えた。初めてピリオドを打てたし、初めて楽になった。自分が国を取るためには日本軍と手を結ぶということさえやる。こんなことまでやる人間であるならば、自国民を殺すくらいなんとも思わないだろう、と思うようになった。

――納得したということか

 そうだ、納得した。

プロフィール

遠藤誉

中国共産党の虚構を暴く近著『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)がアメリカで認められ、ワシントンDCのナショナル・プレス・クラブに招聘され講演を行う。
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ハマスから人質遺体1体の返還受ける ガ

ワールド

米財務長官、AI半導体「ブラックウェル」対中販売に

ビジネス

米ヤム・ブランズ、ピザハットの売却検討 競争激化で

ワールド

EU、中国と希土類供給巡り協議 一般輸出許可の可能
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 10
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story