コラム

日本の政治も外交もサッカーに学べ

2013年06月25日(火)16時09分

今週のコラムニスト:クォン・ヨンソク

[6月18日号掲載]

 サッカー日本代表5大会連続のW杯本大会出場、おめでとう!

 近年の日本は「失われた20年」などと言われ、アベノミクスの登場までは暗い雰囲気の時代が続いていた。一方、日本のサッカーはほかの分野と違って、この20年で飛躍的な成功を収めている。98年までW杯に一度も出られなかった日本だが、今では常連国だ。女子サッカーに至っては世界一にまでなった。

 この成功要因をきちんと分析し、ほかの分野、とりわけレベルが低いと揶揄される政治や外交の世界にも生かすべきだ。

 日本サッカー成功の第1の要因は、W杯に出るという明確な目標を設定したことだ。そのため91年にプロサッカーリーグ(Jリーグ)を発足。開幕からは今年で20周年を迎えた。その草創期にはジーコやリネカー、ストイコビッチ、エムボマといった世界的スター選手や、ベンゲル監督のような名将が基礎を固めた。

 Jリーグは若手の育成にも成功した。韓国の至宝、朴智星(パク・チソン)がマンチェスター・ユナイテッドで活躍できたのも、地味で無名の彼を京都パープルサンガがスカウトし、韓国の指導者が発見できなかった攻撃の才能を見いだしたことから始まる。マンUで香川真司が朴の後を継ぐなど、Jリーグ出身の選手が世界に羽ばたくいい流れもできている。

 第2は、国際化に成功したこと。オフト、トルシエ、オシム、ザッケローニなど有能な海外の指導者を迎え、日本サッカーをその「文化」から根本的に改革した。結果、中田英寿や本田圭佑など、従来の文化では開花しなかったかもしれない世界標準の選手が育つ土壌が生まれた。トルシエの通訳にフランス人のフローラン・ダバディを起用するあたり、他業界では考えられないオシャレさもあった。

 第3に、サッカー協会の行政も韓国人からすれば羨ましいほど素晴らしかった。日本に適した代表監督の選任と協力だけでなく、強豪チームとの強化試合やヨーロッパ合宿の的確なアレンジ、コパ・アメリカ大会への参加など地理的辺境性を克服するための努力も行った。また、「世界のサッカー」を伝えてきたメディアの役割やセルジオ越後、風間八宏、金子達仁など成熟したサッカージャーナリストの存在も見逃せない。

 こうした成功モデルから学ぶべきことは多い。帰化選手の重用や、国籍・民族に拘束されない開放性などは、日本社会では珍しい先進性を物語っている。

■もっと「なでしこ」力の活用を

 近年冷え込んでいる日韓関係の参考にもなる。日本のサッカー界には韓国へのライバル意識はあっても、「嫌韓」や人種差別のような非理性的なことはない。柏レイソルは韓国代表の洪明甫(ホン・ミョンボ)をキャプテンに指名したし、多くの韓国人がJリーグの監督に就任している。女子日本代表の中心選手がそろうINAC神戸の10番を背負うのは韓国の池笑然(チ・ソヨン)だ。

 さらに日本サッカーは女性にも開かれた「男女参画型」だ。今や女の子が将来の夢をサッカー選手と言える時代。世界という壁を打ち破った女子サッカーのように、政治ももう少し「なでしこ」の力に任せてみてはどうだろうか。

 何より、サッカーは世界で堂々とプレーできる「超日本人」を多く輩出している。その姿はとても頼もしく、若者のよきモデルとなっている。おかげで日本の若者と世界の距離も近くなった。

 日中韓で新政権が誕生し、多くの国との首脳外交が展開されるなか、日韓・日中の首脳会談だけは開催されていない。長らく続いてきた日韓議員サッカーも、政治関係の影響で休止中だ。だが7月には東アジア杯が韓国で開催される。この流れで日韓議員サッカーも復活させてはどうか。安倍首相もぜひその雄姿を見せてほしい。背番号は96ではなく、エースストライカーの9番だったりして。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story