コラム

「東京五輪」の目標は北京かそれともロンドンか

2012年09月03日(月)09時00分

今週のコラムニスト:李小牧

〔8月29日号掲載〕

 世界が熱狂したロンドン・オリンピックが終わった。基本的に「ベッドの上のスポーツ」にしか関心がない私だが(笑)、今回のロンドン大会は大いに注目した。

 それはわが中国選手団の活躍ぶりももちろんだが、この大会に東京が実現を目指す2020年夏季五輪のヒントが隠れていると思ったから。北京に続き、第2の祖国である日本で2度目のオリンピックを見るのが私の大きな夢だ。

 今回のロンドン大会の特徴は開幕式にすべて表れていたと言っていい。あえて言うなら、ユーモア、成熟、懐の深さ。007が(スタントマンとはいえ)エリザベス女王をヘリコプターから落とし、「憨豆先生(ハントウシエンション、Mr.ビーン)」演じる映画のパロディーで全世界を爆笑させる。笑わせるだけでなく、オリンピック旗の入場では持ち手にノーベル平和賞受賞者の人権活動家を選び、人権思想と民主主義の母国であることをさりげなく世界に向けてアピールする──。

 東京大会が目指すべきなのは同じアジアの北京式か、それとも今回のロンドンスタイルか。

 確かに4年前の北京大会は、全世界の中国人が祖国を誇りに感じる豪華で華やかな内容だった。女の子の口パクや花火のコンピューターグラフィックス映像が批判を浴びたが、それだって今回の女王スカイダイビングやMr.ビーンと同じ演出の1つだ。

 ただ、たとえ中国が2度目のオリンピックを開催できたとしても、ジャッキー・チェンが元国家主席の胡錦濤(フー・チンタオ)をヘリから落としたり、政治犯の劉暁波(リウ・シアオポー)がオリンピック旗を持って開会式で入場することなどとても考えられないだろう。逆に、あれほど見事なマスゲームを成功させることができるのは、もう中国のほかには北朝鮮ぐらいしかない。

 中国という国にはまだまだ国民一人一人を大切にする、という考えがさっぱり浸透していない。それどころか共産党の指導者ばかりを持ち上げ、こういった特権階級と庶民の格差は広がるばかりだ。

■中国キャスターの「問題発言」

 オリンピックに出場するレベルのスポーツ選手は、小さい頃から親と離れて国の施設で暮らす。このためオリンピック選手の親のほとんどが、子供の活躍を見るため直接外国の会場に行くことがない。これも形を変えた人権侵害といっていい。

 日本人は気付いていないが、今回の開会式で日本選手団が入場するとき、中国中央電視台(CCTV)の有名キャスターは中国向け生中継で実に失礼なコメントをした。日本という国や選手団の現状は一切紹介せず、ただ「(第二次大戦直後の)1948年のロンドン五輪で参加を拒否された国は2つ。1つはドイツ、1つは日本」とだけ発言したのだ。

 このキャスターは日本に長期滞在して詳細なルポを制作したこともある実力派だ。おそらく尖閣諸島の領有権問題で日本ともめているため慎重になったのだろうが、このようにスポーツの祭典でキャスターが「表現する自由」すら、中国では思うように行使することはできない。

 その尖閣問題も、香港の活動家の上陸騒ぎが大きなニュースになったが、中国人にとって何より驚きなのは日本側の所有者があくまで個人であることだ。

 中国では今や大っぴらに土地が売買されているが、建前は社会主義国家なので、個人が買えるのは所有権でなく70年間の長期使用権にすぎない。中国人は、国に土地を取り上げられる恐怖から逃れられない。日本の土地を外国人が買うことはできるが、中国の土地は中国人も買えないのだ!

 オリンピック招致活動の先頭に立つわが石原都知事が目指すのは、もちろんロンドンのような温かみのある大会だろう。意外に北朝鮮顔負けのマスゲームがお好みかもしれないが(笑)。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:戦闘で労働力不足悪化のロシア、インドに照

ワールド

アングル:フロリダよりパリのディズニーへ、カナダ人

ビジネス

NY外為市場=ドル横ばい、米CPI受け 円は週間で

ビジネス

米国株式市場=3指数が週間で下落、AI巡る懸念継続
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 3
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    50歳には「まったく見えない」...信じられないレベル…
  • 6
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    「ドルも弱い」なのになぜ、円安が進む? 「ドル以外…
  • 9
    毛沢東への回帰? それとも進化? 終身支配へ突き…
  • 10
    「賢明な権威主義」は自由主義に勝る? 自由がない…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 3
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 6
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    50歳には「まったく見えない」...信じられないレベル…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story