コラム

中国的歴史認識とポピュリズム

2014年04月26日(土)18時45分

 最後に一つ、特筆しておきたいのは、この差し押さえ事件が「なぜ今になって起こったのか」である。

 答は簡単だ。今の中国政府は、ポピュリズムに流れているからだ。前回このコラムでも触れたマレーシア航空機行方不明事件に関わる、家族によるマレーシア在中大使館への抗議活動でも、がっちりと政府当局が周囲を囲って家族を大使館前に送り届けた。同事件に対する中国政府の対応の低調さは、周囲が不思議に思うほどなのだが、それでも家族たちの不満を押さえつけすぎると不必要な爆発を招く。それには適度なガス抜きが必要で、そのガス抜きの道筋は政府が手配したとおりに行われるというわけだ。

 中国社会には今、あちこちに不満が渦巻いている。それは政府も知っている。それに対して政府は微博を使ったり、メディアで明らかな宣伝工作をして、「政府はみなさんのために働いている」という人気取りを、これまで以上に繰り返し刷り込むようになってきた。そうすることで少しでも政府への信頼感を高め、イザというときの爆発を防ぐためなのだ。

 つまり、今回の事件も2007年に判決が下り、2011年に商船三井側の控訴が棄却されて拘留が今になったのは、日中間の険悪ムードの高まりを背景に「庶民のために力を尽くす中国政府」のイメージ作りに他ならない。だが、マレーシア航空機不明事件で国際舞台となってしまった捜索活動で中国は得点を上げることができなかった分、大衆への態度は「親しい政府」が求められた。こうした「庶民に寄り添う」と言いながら、実はその行動のレールを当局がしっかり敷いて導く例が最近とみに増えている。政府は今、自分の立場を脅かさないのであれば、多少の大衆の喜ぶことはやろうとしている。中国の政府系メディアが最近とみに意気揚々、明るい話題ばかりを取り上げるのもそれが理由だ。

 中国政府のポピュリズムについては、今後改めて書こう。

プロフィール

ふるまい よしこ

フリーランスライター。北九州大学(現北九州市立大学)外国語学部中国学科卒。1987年から香港中文大学で広東語を学んだ後、雑誌編集者を経てライターに。現在は北京を中心に、主に文化、芸術、庶民生活、日常のニュース、インターネット事情などから、日本メディアが伝えない中国社会事情をリポート、解説している。著書に『香港玉手箱』(石風社)、『中国新声代』(集広舎)。
個人サイト:http://wanzee.seesaa.net
ツイッター:@furumai_yoshiko

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