最新記事

米中激突:テクノナショナリズムの脅威

米中貿易戦争の行方を左右する「ライトハイザー」の影響力

TARIFF MAN

2019年1月30日(水)16時00分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

やり方は強引だが、米中貿易についてトランプが絶大な信頼を寄せているとされるライトハイザー Mary F. Calvert-REUTERS

<トランプの対中強硬姿勢を裏で操るのはこの男。ずっと以前から中国の貿易姿勢に警告を発していたUSTR代表は今、何を考え、どのような手法で、勝利を手にしようとしているのか>

※2019年2月5日号(1月29日発売)は「米中激突:テクノナショナリズムの脅威」特集。技術力でアメリカを凌駕する中国にトランプは関税で対抗するが、それは誤りではないか。貿易から軍事へと拡大する米中新冷戦の勝者は――。米中激突の深層を読み解く。

◇ ◇ ◇

ドナルド・トランプが米大統領として初めて中国を訪れたのは一昨年の11月。既に両国間の貿易摩擦は高まりつつあった。だからこそ中国側は特別に紫禁城を案内するなど、トランプを手厚くもてなした。晩餐会では習近平(シー・チンピン)国家主席も笑顔を振りまいた。ただし具体的な成果は乏しかった。同行した米企業との間で総額2500億ドル相当の商談をまとめた以外は、半年に1度の高官級「戦略経済対話」の重要性が確認されたくらいだ。

トランプに同行していたロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は不満だった。その「対話」はブッシュ(息子)政権時代に始まったものだが、しょせんは中国がアメリカをだまし、両国貿易の現状を維持する方便にすぎないとみていたからだ。

そこで2日目の会談終了後、ライトハイザーはトランプに、「あなたは手玉に取られている」と直言したという。トランプ自身も、うすうす気付いていた。だから彼はライトハイザーに、今後の中国との対話では貿易問題を最重視すると約束した。この日を境に、ライトハイザーは対中貿易赤字の解消というトランプ政権の最重要課題に関して、大統領に最も影響力を行使できる人物となった。

実を言うとライトハイザーは2010年に、議会の諮問機関「米中経済安全保障検討委員会」に対し、厳しくも(今にして思えば)的確な書簡を送っていた。

その書簡で、彼は中国のWTO(世界貿易機関)加盟が米経済、とりわけ製造業にもたらす影響についての評価が楽観的過ぎると批判した。中国は外国企業に圧力をかけ、国内の産業を育てるつもりだと指摘し、先行する外国企業から技術を盗み、国産技術の開発に利用していると警告した。この見解は、今やアメリカ政界では多くの人に共有されている。

ライトハイザーは、自分は「筋金入りの共和党員」で自由貿易の支持者だと公言している。しかし自由貿易が絶対だとは考えていない。

中西部オハイオ州で生まれ育った彼は、地元経済の要として活況を呈していた鉄鋼産業が、1970年代から80年代にかけて外国勢との競争で衰退するのを目の当たりにしてきた。「あのとき見せつけられた現実」が自分の考え方を変えたとも語っている。

80年代の対日交渉で成功体験

ライトハイザーがUSTRの職員として初めて手掛けたのは1980年代の日米貿易摩擦だ。当時の日本市場閉鎖的で、さまざまな貿易障壁があった。一方で日本企業は主要産業において競争力を付けており、アメリカには日本製の自動車や鉄鋼、半導体があふれていた。そして米企業の競争力は日本勢より劣っていた。

【関連記事】テクノナショナリズムの脅威──米中「新冷戦」とトランプの過ち

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

キューリグ・ドクター・ペッパー、JDEピーツ買収で

ビジネス

トランプ米大統領、クックFRB理事を解任 書簡で通

ワールド

空売り情報開示規制、SECに見直し命じる 米連邦高

ビジネス

日経平均は反落で寄り付く、週明けの米株安の流れ引き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 7
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中