最新記事

米中激突:テクノナショナリズムの脅威

米中貿易戦争の行方を左右する「ライトハイザー」の影響力

TARIFF MAN

2019年1月30日(水)16時00分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

それでも自由貿易派は「傍観し、(現実を)受け入れる」しかないと考えていたが、大統領のロナルド・レーガンは違った。彼は1974年の通商法が大統領に与えた奥の手を使うことも辞さなかった。国内企業に不当な打撃を与えている外国企業に対し、GATT(WTOの前身)を迂回してダイレクトに制裁を加えることを認めた「スーパー301条」である。

ライトハイザーは日本に対する「スーパー301条」の発動で中心的な役割を果たした。そして米政府は幅広い日本製品に関税を課すと脅して、日本側に対応を迫った。

日本側はこれに激怒したが、この戦術は一定の成果を上げた。以後、日本は米国製半導体の輸入を増やしていくことに同意し、いわゆるダンピング輸出を規制する複雑な制度の導入にも応じた。またアメリカは日本の自動車業界に対し、完成品の輸出よりも米国内での生産を増やすよう圧力をかけた(そうすれば米国内の雇用が増え、対日貿易赤字は減る)。今では米国内に日本の自動車工場が24もある。

ライトハイザーに批判的な人々は、彼の考え方が短絡的だと指摘する。アメリカの主要同盟国である日本を取引に応じさせて危機を回避した成功体験から、およそ同盟関係にはない中国にも同じ手が使えると安直に考えているのではないかと。

しかしUSTRの職員やライトハイザーをよく知る人々は、そうした指摘に反論する。実際、ライトハイザーは今の対中貿易の問題が1980年代の日本より複雑であることを理解している。一方で貿易交渉に勝つカギは「自国の強みがどこにあるか」を知ることだとも信じている。そして中国経済の減速が明らかでアメリカ経済に勢いがある今は、ひたすら対中圧力を強めるのが得策と考えている。

「だからといって彼が関税や、それがアメリカの産業界や株式市場にもたらすリスクを知らないわけではない」と、彼をよく知る人物は言う。そして必ずしも「2国間の貿易赤字ばかりを重視しているわけでもない」と。

USTRが中国へのスーパー301条発動に備えた調査で指摘したように、長い目で見て大事なのは中国を説得することだ。外国企業の排除や知的財産の侵害、技術移転の強要などによって国内企業を育てようとするやり方には必ず大きな代償が伴うことを、中国側に理解させる必要がある。

専門家は「危険な方針」と警戒

今のままだと中国経済は高率関税で傷つき、中国企業の対米直接投資がやりにくくなり、アメリカの投資家は貿易戦争への懸念から資金を引き揚げるだろうが、それはやむを得ないとライトハイザーは考えているようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、年内4回の0.25%利下げ必要 物価問題は

ワールド

米イラン3回目核協議、「合意枠組み」の可能性 依然

ビジネス

米新規失業保険申請件数は4000件の小幅増、労働市

ワールド

印イスラエル、防衛分野での協力強化へ 労働者受け入
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    戦術は進化しても戦局が動かない地獄──ロシア・ウクライナ戦争5年目の現実
  • 4
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 5
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 6
    「まるで別人...」ジョニー・デップの激変ぶりにネッ…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    「IKEAも動いた...」ネグレクトされた子猿パンチと「…
  • 10
    「バカにされてる」五輪・選手村で提供の「アメリカ…
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 5
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 6
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 9
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 10
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中