最新記事

米中激突:テクノナショナリズムの脅威

テクノナショナリズムの脅威──米中「新冷戦」とトランプの過ち

THE WRONG TRADE WAR

2019年1月29日(火)06時45分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

ILLUSTRATION BY ALEX FINE

<関税引き上げで譲らないトランプは習近平の譲歩を引き出しかけているが、それでも中国の先端技術大国は止められない? トランプの仕掛けた戦争は、残念ながら間違いだ>

※2019年2月5日号(1月29日発売)は「米中激突:テクノナショナリズムの脅威」特集。技術力でアメリカを凌駕する中国にトランプは関税で対抗するが、それは誤りではないか。貿易から軍事へと拡大する米中新冷戦の勝者は――。米中激突の深層を読み解く。

◇ ◇ ◇

生まれ育ったのは北京から800キロほど離れた河南省の極貧の村。家は一部屋きりで、労災で片脚を失った父に職はなく、母は息子の李相福(リー・シアンフー)を大学に行かせるために来る日も来る日も麦畑で必死に働いていたという。

2001年の夏、筆者は長距離列車の車中でたまたま李と出会った。帰省の途中だと言っていたが、彼の人生は大きく変わろうとしていた。北京の清華大学を優秀な成績で卒業した彼は、当時はまだ国際的には無名の会社に入社が決まっていた。その名を華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)という。1987年に電話交換機のメーカーとして創業した会社である。

あれから20年弱。現在の李は人工知能(AI)分野のソフトウエア開発を指揮する重役だ。会社自体も大変身した。今では中国を低賃金の「世界の工場」からハイテク大国へと導くリーダー格で、スマートフォンの出荷台数はアップルを上回る。あらゆるモノをインターネットでつなぐのに不可欠な5G通信ネットワークの基幹技術でも存在感を発揮している。

昨年8月には世界で初めて、スマートフォンで顔認証などのAIソフトを使えるチップセットを発売した。それは中国が貧しい途上国から技術超大国へと変貌を遂げたことの証しであり、私たちの暮らしから世界中の商取引の在り方までを変えてゆくAIの分野で世界をリードするという中国の野望の表明でもあった。

こうした急展開に、アメリカの政府も産業界も警戒を強めている。中国政府が2015年に打ち出した「中国製造2025」は、情報技術から新エネルギー、宇宙工学、先端医療までの分野で世界の製造強国となることを目指す壮大な計画で、なりふり構わず国費を投入してハイテク産業を育成するという強い決意を表している。中国市場に参入したい外国企業には「技術移転」の名目で知的財産や製造ノウハウを提供させ、必要とあらばサイバー攻撃で企業秘密を盗み出す。形式上は民間企業であるファーウェイも政府の指導下にあると、欧米諸国はにらんでいる。

鍵を握るのは半導体の国産化

アメリカは長年にわたり、中国政府の横暴を大目に見ていた。米企業が中国の巨大市場で稼げるようにするため、多少のことには目をつぶってきた。それでも中国が経済改革を続けている限り、いわゆるウィン・ウィンの関係を築けると考えてきた。

しかし目算が狂った。まず、中国経済の成長速度が鈍った。習近平(シー・チンピン)国家主席は市場開放を遅らせ、いくつかの分野では後退させた。米外交評議会は「中国製造2025」を「アメリカの技術的優位に対する深刻な脅威」と見なしている。

【関連記事】米中貿易戦争の行方を左右する「ライトハイザー」の影響力

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

政府、25・26年度の成長率見通し上方修正 政策効

ビジネス

フジHD、株式買い増しはTOBでと旧村上系から通知

ワールド

北京市、住宅購入規制さらに緩和 需要喚起へ

ビジネス

26年度の超長期国債17年ぶり水準に減額、10年債
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中