コラム

「最後のISS」から帰還...大西卓哉さんに聞いた、宇宙でのリーダー論と「月挑戦」への情熱

2025年10月17日(金)21時25分


ISSは老朽化などにより2030年には運用が終了します。最近は終了時期が早まる可能性も報じられています。帰国会見で、大西さんは筆者の「ISS滞在は最後になる可能性が高いということで、離れるときに感傷的な気持ちになりましたか」という問いに「自分はもともと感傷的な人間ではないのに、今回はそうなった」と答えました。

さらに「前回のフライトのときは『たぶん、またこの場所に戻ってくるんだな』という気持ちだったが、今回は『もう来ないだろうな』という思いがあって、一つ一つの実験装置に触れるたびに『もしかしたらこれに触れるのもこれが最後かもしれないな』という思いにとらわれることが多かった。それから、ISSからは月がとてもきれいに見えるので『次はあそこに行きたいな』と思った」と宇宙での心境を語りました。


──素朴な疑問なのですが、船外活動でISSのように宇宙空間に完全に放り出されてしまう場合と、月面で外に出る場合とでは、大西さんにとってどちらのほうが怖いとか、どちらのほうがよりやってみたいというのはありますか。

大西 たぶん、重力のあるなしで感覚は全然違いますよね。(地球の)6分の1と言っても月には重力があるので、やりやすいのは月面だと思います。

──ポストISSミッションに向けて、大西さんはどういう意識で過ごして、どんなスキルをさらに磨いていきたいですか。

大西 まずは今回、宇宙で自分が得た経験を、フライトディレクタとして地上の関係者にしっかりフィードバックをしながら仕事をしていきたいですね。

それから、アルテミス計画(※)に臨むにあたっては、自分の今のスキルをもっと磨いていかなくてはならないと思っています。もう少し具体的に言うと、英語のスキルですとか、月面に着陸する時は着陸船の運用を2人のクルーで行うことになるので、飛行機の操縦やヘリコプターを飛ばす訓練が必要になってくるかもしれません。そこは初心にかえってスキルを磨きたいです。

※NASAが主導する有人月面探査の国際プロジェクト。日本人宇宙飛行士2名を月面に降り立たせる方針が日米政府間で合意されている

──大西さんは宇宙飛行士になる前は旅客機パイロットだったこともあって、メカに強い、マルチタスクに強いという印象があります。

大西 そうですね、マルチタスクは自信があるほうだとは思うのですけれども、この間の記者会見では全然質問に答えられなかったですね(笑)。そういったところも含めて、人間の能力というのは年齢を重ねるにつれて衰えていくものもありますので、自分がまだちゃんと旬(しゅん)のうちにもう一回フライトできればと思います。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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