コラム

日本の宇宙開発にとって2024年は「実り多き一年」 イプシロンSロケット燃焼実験失敗とロケット開発の行方は?

2024年12月16日(月)12時00分

日本のロケット開発は1955年、東京大学生産技術研究所によって開発された長さ23センチ、直径1.8センチの通称「ペンシルロケット」から始まります。

その後、固体燃料を使う比較的小型なロケットと、液体燃料を使う大型ロケットの2系統が、基幹ロケットとして発展していきました。

固体燃料ロケットでは固体推進剤が一気に燃えるため大きな推進力が得られますが、燃焼制御が難しく推進力は長く続きません。それに対して、液体ロケットは液体推進剤の量の調節が容易なので、推進力を止めたり複雑な制御をしたりしやすいという特徴があります。

そこで一般に、大きな初速度が必要な場合や比較的小型のロケットには固体燃料ロケット、精密な軌道投入を行う場合や大型ロケットには液体ロケットが使用されます。

固体燃料ロケットは「ペンシルロケット→ベビーロケット→カッパー(K)→ラムダ(Λ)→ミュー(M)」と名付けられてきました。

国際競争力の強化に向けて

イプシロンロケットは、66年から06年まで長年にわたって活躍したミューロケットの後継に当たります。イプシロン (Ε) の名称は、カッパーロケット以降、名前にギリシャ文字が使われてきた伝統を受け継ぎました。「Evolution & Excellence(技術の革新・発展)」「Exploration(宇宙の開拓)」「Education(技術者の育成)」の頭文字にも由来すると言います。

13年に打ち上げを開始したイプシロンおよび強化型イプシロンロケットは、22年の6号機まで運用されました。しかし、6号機の打ち上げ失敗で搭載した8機の人工衛星を喪失してしまったため、いったん運用を終了してイプシロンSとしてバージョンアップする予定です。なお名称は「イプシロンS初号機」とはならず、「イプシロン7号機」などと従来の名称を引き継ぐ見込みです。

「イプシロンS」はJAXAとIHIエアロスペース(東京都)で共同開発した、全長およそ27.2メートルの3段式のロケットです。イプシロンSの「S」にはシナジー(Synergy, 相乗効果)の意味も込められており、H3ロケットの固体ロケットブースター(SRB-3)と生産を共通化することでコストを低減し、打ち上げの頻度を高めることで、世界的に需要が高まる小型衛星打ち上げビジネスへの参入において国際競争力を強化することを目指しています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国1月製造業PMIが50割れ、非製造業は22年1

ワールド

米政府機関の一部が短期間閉鎖へ、予算案の下院採決持

ワールド

トランプ氏、労働統計局長にベテランエコノミスト指名

ワールド

焦点:トランプ政権、気候変動の「人為的要因」削除 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 2
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵士供給に悩むロシアが行う「外道行為」の実態
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 5
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパ…
  • 6
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 7
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 8
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 9
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 10
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story