コラム

日本の宇宙開発にとって2024年は「実り多き一年」 イプシロンSロケット燃焼実験失敗とロケット開発の行方は?

2024年12月16日(月)12時00分
イプシロンSロケット燃焼実験

   種子島宇宙センター竹崎局から撮影した試験画像(11月26日) 宇宙航空研究開発機構(JAXA)

<2024年の日本の宇宙開発は数多くの成功を遂げたものの、年の瀬にはいくつかのロケットで打ち上げ延期が発表された。11月26日の種子島での第2段モータの地上燃焼試験中に起きた爆発事故を受け、JAXAは調査状況を説明したうえで、「イプシロンS」の2024年度内の打ち上げは不可能になったとの見解を示した。日本の宇宙開発におけるイプシロンSの位置付けとは?>

2024年の日本の宇宙開発事業は、1月に小型月着陸実証機「SLIM」の日本初の月面着陸成功に始まり、2月に次期大型基幹ロケット「H3」の打ち上げ初成功(試験機2号機)など実りの多い成果が得られました。

「H3」はその後も3号機(7月)、4号機(11月)の打ち上げに成功し、先進レーダ衛星「だいち4号」(「H3」3号機に搭載)や防衛通信衛星「きらめき3号」(同4号機に搭載)も無事に予定軌道に投入されました。

一方、年の瀬に入り、いくつかのロケットで打ち上げ延期が発表されました。

01年の初号機打ち上げから20年以上にわたって活躍し、失敗は6号機(03年)の1回のみという絶大な信頼性を誇る大型基幹ロケット「H2A」は、今年度中に50号機を打ち上げて引退する予定でした。

しかし、内閣府の宇宙政策委員会で9日に示された今後の宇宙開発のスケジュールをまとめた工程表の改定案によると、打ち上げは来年度に延期される見通しとなりました。搭載が予定されている温室効果ガスなどを観測する人工衛星の性能確認中に不具合が見つかり、部品交換や修理が必要となったことなどが原因と言います。

イプシロンSの打ち上げ「2024年度内は不可能」

一方、H2Aとは異なり、ロケット自体の開発の遅れが原因となって打ち上げ延期を余儀なくされたのが、開発中の小型固体燃料ロケット「イプシロンS」です。

JAXA(宇宙航空研究開発機構)は5日、11月26日に発生したイプシロンSの第2段モータ(※注:JAXAはモーター[推進装置]のことを慣例でモータと表記)の地上燃焼試験中に起きた爆発事故を受け、現在の調査状況を説明し、予定していた2024年度内の打ち上げは不可能になったという見解を示しました。

イプシロンSは、大型ロケットのH2AやH3と比べると、一般には馴染みが薄いかもしれません。日本の宇宙開発におけるイプシロンSの位置付けを確認し、今後の見通しを概観してみましょう。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アップル、関税で4─6月に9億ドルコスト増 自社株

ビジネス

英中銀は8日に0.25%利下げへ、トランプ関税背景

ワールド

米副大統領、パキスタンに過激派対策要請 カシミール

ビジネス

トランプ自動車・部品関税、米で1台当たり1.2万ド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story