コラム

宇宙でしてみたい実験は? 米田あゆさんと諏訪理さんに聞いた「宇宙飛行士」としての自覚と興味、AI観

2024年11月08日(金)20時00分

──ところで、今月(注:2024年10月)の大きなニュースの1つに、今年度のノーベル物理学賞がAIの研究に与えられたことがあります。米田さん、諏訪さんは、宇宙開発はAI任せにできると思いますか。それとも、「やっぱり宇宙飛行士がいないとダメだ」と思われているでしょうか。AIと飛行士との棲み分けや、「こういう部分で人間が必要だ」と思うところがあれば教えてください。

諏訪 宇宙開発の長い歴史で、色々なテクノロジーを徐々に取り込んでいったという史実があると思うんですよね。アポロの時代に、最初にコンピュータを導入してプログラミングしたものが何かするっていうことに、パイロット出身の方の中には最初すごい抵抗があった方もいらっしゃったみたいな話を聞いたことがあります。

今はもちろん、コンピュータが何かをするっていうのが当たり前の時代になってきていて、宇宙開発にももちろん使われてるわけですけども、きっと同じようなことがロボットにも今起きつつあって、AIにも起きてくるんだろうなと思っています。

なのでAIと一緒に何かをしていくっていう事態は、いずれ遅かれ早かれ来ると思うんですが、その棲み分けがどうなっていくのかっていうのは、AIがどれだけ信頼のおけるテクノロジーになっていくのかっていうことと比例して変わっていくのかなという気がしています。

最初のうちは、たぶんちっちゃいところでAIを使ってみて、宇宙飛行士のクールタイム(休息時間)って非常に貴重なので、AIに任せられるところは任せて、人間は他のところをやりましょうっていうふうになっていくと思うんです。AIの担当部分はだんだんと増えていくと思いますが、人間に残る部分は、例えば感覚、「何か違うぞ」という直感的なものとかではないでしょうか。直感は、ある程度の経験に裏打ちされていると思うんですけれども、それによってより良い判断ができるというのは、まだまだ人間に優位性があると思います。そしてやっぱり、何かを見て「綺麗だ」とか「美しい」とか、言葉で感動を伝えるっていう部分は、人間が残っていくんじゃないでしょうか。

100年後どうなってるかは分からないですけれど、少なくとも今後20年30年を見据えて考えると、まだまだ人間がやらなきゃいけない部分があるし、AIとの協力関係みたいなものができていくのではないかと個人的には思っています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EUメルコスルFTAに暗雲、仏伊が最終採決延期で結

ワールド

NZ、今後5年は財政黒字化せず 景気低迷が重し

ワールド

ベネズエラ大統領がベラルーシ移住なら歓迎=ルカシェ

ワールド

アングル:物価高はトランプ氏のせいか、支持者が大統
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story