コラム

サルは選挙結果を予想できる? サルの判定と現実の勝敗が偶然以上の確率で一致...では、米大統領選2024の勝者は?

2024年09月27日(金)20時55分

見た目における顎の重要性について、研究者たちは「選挙のチラシやポスターでは、候補者のほとんどが笑顔で写っている。これは顎のラインが強調されることも理由かもしれない」と推測しています。

サルと人間に共通する男性的な顔の特徴は、思春期に血中の男性ホルモン(テストステロン)の値が高くなることによって現れます。アカゲザルは顎の突き出た男性的な顔立ちの人間を、より地位の高い者と認識しました。つまり、男性的な顔を社会的地位の高さと結びつけて考えているということです。

サルの判定が現実の選挙結果と偶然以上の確率で一致しているということは、「顔に対する偏見が、人間とサルの間で共有されていることが示唆される」と研究者たちは述べています。

もっとも、選挙結果のすべてが「顔の男性度の強さ」で決まるとすれば、女性候補者は男性候補者に対してほぼ勝てなくなります。けれど、実験で使われた期間の選挙では、男女が競った選挙の約半数(48.8%)で女性候補者が勝ちました。

このことは、「選挙において、人間は顔以外の要因もちゃんと考慮している」とも考えられますし、実験で使ったアカゲザルはすべてオスだったので「リーダーを選ぶ時に、メス(女性)には別の判断基準がある」と言えるのかもしれません。

トランプvsハリスの予想は「接戦」──選挙アナリストの分析とも合致

アメリカで今秋最大の話題は大統領選です。研究チームは、もちろんトランプ氏とハリス氏の写真も並べて、アカゲザルに見せて「勝敗の予想」を試みました。

これまでの実験結果から、女性のハリス氏はサルの判定では不利になると予想されます。ところがサルたちは、トランプ氏に対してもハリス氏に対しても、同じ頻度と時間で視線を向けました。

視線の偏りが得票率の差を示すという実験結果も考慮すると、トランプ氏とハリス氏は接戦になるとサルは告げています。これは、人間の選挙アナリストの分析とも合致しています。

研究者たちは、トランプ氏が候補者となった過去の大統領選も写真判定を試みました。すると、前回(20年)の選挙では、トランプ氏の得票率は、顎の突出に基づく予測を大きく下回りました。

日本では初の女性総理の誕生は先送りになりました。果たして、アメリカでは初の女性大統領が誕生するでしょうか。1カ月後に注目しましょう。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、ダウ249ドル安 トランプ関税

ワールド

トランプ氏、シカゴへの州兵派遣「権限ある」 知事は

ビジネス

NY外為市場=円と英ポンドに売り、財政懸念背景

ワールド

米軍、カリブ海でベネズエラ船を攻撃 違法薬物積載=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 6
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 7
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 8
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 9
    トランプ関税2審も違法判断、 「自爆災害」とクルー…
  • 10
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story