コラム

「アルテミス世代」の宇宙飛行士候補が受ける訓練の内容とは? 初公開されたその一部と、記者会見で2人が示した「圧倒的コミュ力」

2024年02月15日(木)19時55分

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筑波宇宙センターで運動訓練を受ける米田さん(左)と諏訪さん(同右) 筆者撮影

また、将来の有人宇宙探査でも毎日の運動義務が想定されますが、ISSと比べてトレーニングマシンの小型化が必要なため、一台で複数の運動ができる器具が検討されていると言います。

集中するために照明が落とされた訓練室で、米田さんと諏訪さんはトレーナーの指導のもと、ボート漕ぎや自転車漕ぎの動きができるマシンを使った有酸素運動や、ダンベルを使った筋トレを行いました。米田さんは時折トレーナーと話しながら終始にこやかに、諏訪さんは真剣な面持ちで一心不乱にメニューをこなしているのが印象的でした。

つい応援したくなる人柄

公開訓練の後には、2人への取材の場が設けられました。

筆者はこれまでに、何人かの宇宙飛行士にインタビューしたり、記者会見場で質問したりしたことがあります。そのたびに「宇宙飛行士ほどコミュニケーション能力に長けた人は稀(まれ)だ」と感じます。

というのも、相手から目を逸らさずに端々でうなずきながら、質問に回答するというよりも記者との会話を楽しむように自然に話すからです。常にポジティブに、真摯に、時にはユーモアを交えながら当意即妙に自分の考えを伝える姿に触れると、その宇宙飛行士を応援したいという気持ちがいつのまにか高まります。

第6回の宇宙飛行士候補者が決定した時、「応募条件には学歴不問と書いてあったのに、結局、東大卒の2人になった」と批判する声も少なくありませんでした。けれど、この2人の真価は、偏差値が高いことでも語学に秀でていることでもなく、コミュニケーション能力の高さにあると、今回の記者会見で改めて感じました。

米田さんは、23年2月に行われた候補者決定の記者会見でパートナーの存在や若い女性としての見解を尋ねられて、「プライベートのことで回答するのは差し控えさせて頂きたい」「若い女性であるという特性を意識してというのではなく、一宇宙飛行士候補生として頑張っていければ」と回答したことが、当時、大きく取り上げられました。

SNSでは「米田さんの返しがすごい」「不必要な質問に毅然とした態度で臨んでカッコイイ」など多くの称賛の声が寄せられましたが、経歴もあいまって「頭の回転が早く、白黒をはっきりつけたい人なのだ」という印象を持った人も多いかもしれません。要は、ちょっとキツめな性格に見られがちだったのではないでしょうか。

けれど実際の米田さんは、にこやかに話し、表情がクルクルと変わり、とても愛嬌があります。たとえば日本初の月面着陸に成功したSLIMについて、「着陸の瞬間は、すごいドキドキして固唾をのんで見守るような気持ちでした」「(SLIMの太陽電池パネルが発電して機能が復旧して)目覚めてすごい嬉しかったですし、『待っててね』みたいな気持ちに日本や世界の宇宙飛行士がなっているんじゃないかと思います」など、率直な感想を話し言葉で伝えてくれました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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