コラム

翼竜にカラフルな羽毛の痕跡 恐竜との類似点、相違点から進化を考える

2022年05月03日(火)11時30分
恐竜と翼竜

鳥の先祖は翼竜ではなく、恐竜(写真はイメージです) CoreyFord-iStock

<「羽毛恐竜」は過去にも見つかっているが、翼竜では初めて。カラフルな羽毛は、「(現在の鳥類と同様に)異性の注意を引くために使われていた可能性もある」と専門家は語る>

ティラノサウルスにプテラノドン......。中生代三畳紀に現れ、白亜紀に絶滅した恐竜や翼竜の予想図は、子供だけでなく大人の心もワクワクさせます。

ベルギー王立研究所などの国際研究チームは、4月20日付の科学誌『Nature』に「翼竜の頭にカラフルな羽毛が生えていた痕跡を見つけた」と発表しました。この研究の意義と、恐竜と翼竜の違いや、鳥の先祖について概観しましょう。

今日の鳥は、恐竜の子孫

恐竜は、最新では「鳥とトリケラトプスの直近の共通祖先と、そのすべての子孫」と定義付けられています。この定義だと、首長竜(プレシオサウルスなど)や翼竜(プテラノドンなど)は、恐竜には含まれません。現生の鳥類は、翼竜ではなく恐竜の子孫なのです。

恐竜は、ほぼ陸を生息地としており、直立二足歩行に適した骨格を持つ爬虫類であることが特徴です。後に四足歩行となった種も、「身体が大きくなる前の初期の種は、二足歩行だった」と考えられています。

現生の爬虫類は、ワニやトカゲのように、肢が付け根から地面に平行に伸びてから関節でほぼ直角に曲がって接地します。対して、恐竜はヒトのように付け根から身体の真下に肢が伸びています。このために二足歩行が可能になりました。

また、卵が固い殻に覆われていたため乾燥や衝撃に強く、陸に卵を産むことができました。

いっぽう翼竜は、地球史上初めて空を飛んだ脊椎動物と言われています。かつては小鳥程度から翼を開くと12メートルを超える大きさのものまで生息していて、翼は膜構造をしていました。現生の動物ではコウモリが似た構造の翼を持っていますが、コウモリは親指(第1指)以外のすべての指が膜を支えているのに対し、翼竜の翼は薬指(第4指。第5指は退化)と脚の間だけに膜が張っていました。

翼から離れていて動かせる指が多数あったので、翼竜はコウモリよりも物をつかむのが得意な反面、指1本だけで膜を支えているので飛行の自由度はあまりなかったと考えられています。もっとも、膜には神経や筋肉が張り巡らされていて、膜の形を多様に変化させて飛行制御をしていたという説もあります。

ここで、翼竜が飛行制御を行うだけの高度な知能を持っているとすると恒温動物だったのではないか、そのためには体温を維持する羽毛を持っていた可能性がある、などの指摘もあります。

今回のカラフルな羽毛の発見は、議論を一歩進ませるかもしれません。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story