コラム

単位の新しい接頭辞が31年ぶりに追加 なぜ今なのか? 必要性は?

2022年04月26日(火)11時00分
数字と新しい接頭辞

世界に流れるデジタルデータの量が関係?(写真はイメージです) metamorworks-iStock

<ロナ(10の27乗)、ロント(10のマイナス27乗)、クエタ(10の30乗)、クエクト(10のマイナス30乗)──なぜ新たな接頭辞が規定されるのか。単位創設・導入の歴史とともに紹介する>

世界各国では様々な単位が使われています。長さを例にとると、英語圏で使われているマイルは1マイルが約1.6キロメートル、日本で戦前まで中心的に使用されていた尺は1尺が約30センチメートルです。

国際化が進むと、商取引や情報共有の時に各国で使用する単位がばらばらだと、いちいち母国の単位への換算が必要になり瞬時に数値の大きさがつかみにくいという弊害があります。そこで現在は、メートル法を発展させた十進法ベースの単位体系「国際単位系(SI単位系)」が世界中で使用されています。さらに今年11月には、31年ぶりに国際単位系で「SI接頭辞」(キロ、ギガ、ナノのように、10を何回乗じたかを表す言葉)に仲間が増えそうです。

「使わなければ罰金」でようやく普及

世界共通の単位の成り立ちを振り返りましょう。

単位系の最初の国際統一は、18世紀末にフランスが実施しました。18世紀になって交易が広域化すると、地続きのヨーロッパ諸国ですら地域によって長さや質量の単位はまちまちで、商取引の煩わしさや地図の記述の統一性のなさで混乱を極めていたからです。

そこで1790年にフランス国民議会は「長さの単位を統一し、新しい単位を創設する」と決議しました。その後、学者や有識者が集まった委員会が結成されて議論した結果、「地球の子午線を基準に新しい長さの単位を決める」ことにしました。

苦心した測量は1798年に完了。1799年に「北極点から赤道までの子午線弧長は5130740トワーズ(※)」と計算されて、その1000万分の1を新たな長さの単位「メートル」に定義しました。
※トワーズはかつてフランスで使われていた長さの単位

メートルが定義されると続いて、質量の単位は1立方デシメートルの水の質量を1キログラム、面積の単位は100平方メートルをアール、体積の単位は乾量用に1立方メートルをステール、液量用に1立方デシメートルをリットルと定めました。

ただし、フランスにおいても、メートルを基準にした新しい単位系はすぐには普及しませんでした。1837年に「1840年以降はメートル法以外の単位の使用を禁止する」という法が制定され、公文書にメートル法以外を使用した場合は罰金を科すと規定されて、ようやく広く使われるようになります。

メートル法の特徴は、「地球の大きさ」「一定の容量の水の質量」といった世界のどこでも普遍性がある基準を使ったことにあります。これまでは「王様のひじの長さ」や「歩幅」などを基準にしていたので、人種による体格差や精密性の問題がありました。

また、体積や面積も、ガロンや坪など1つ1つに独自の単位が規定されていると覚えるだけでも大変ですが、メートルという基本単位の掛け算(たとえば、平方メートル=メートル✕メートル)で示すことで単位の種類の簡略化が行えました。

さらに各国独自の単位では、位取りの方法には四進法、十二進法など様々ありますが、十進法はもともと指の数から始まったと言われており、メートルの位取りに採用されても世界中で受け入れやすかったと考えられています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story