コラム

日本銀行の「リーク」体質を利用する悪い「市場関係者」たち

2016年09月15日(木)12時01分

その閉鎖性をあらわす、日銀の政策内容にかかわる「リーク」問題

 その歪みと閉鎖性を端的に表現するのが、日本銀行の政策内容にかかわる「リーク」問題である。例えば、いま経済関係のマスコミはいっせいに、次回の金融政策決定会合で、マイナス金利のより一層の引き下げが行われることを、実に具体的に報道している。このような政策の具体案が、事前にマスコミから報道されるのは、黒田日銀時代になってからは久しくみられない事態である。もちろん事前に金融政策決定の具体策が日銀から流れることはあってはならないことである。なぜならその情報が本当に「真」ならば、それでインサイダー的な取引に活用できるからだ。

 一般的な構図だが、政策決定内容に関するこの種の"リーク"と、実際に報道されるまでの間には、時間のラグが存在する。そのため、中央銀行の政策についての"リーク"が行われれば、その内容を利用して金利や政策に左右されやすい株式銘柄の取引などを行う余地が生まれるからだ。

 今回のものは、"リーク"だろうか? その真偽はいまの段階ではわからない。

 またもっともらしい情報とみせかけて、先ほどの「市場関係者」に根強いアンチ金融緩和勢力に益するためともとれる。それはこういったことだ。「市場関係者」の大半は、日本銀行の金融緩和政策に批判的である。それは「市場関係者」たちの利害を損ねることがあるからだ(特に国債取引関係者や金融機関、デフレ志向のメディア記者らにこの傾向が強い)。日本銀行が想定可能な金融緩和の具体案を先行して報道することで、実際の金融緩和政策を制約することを狙うという手法だ。

 ただ黒田日銀以前は、この種の"リーク"はしきりに市場を駆け巡っていた。筆者がその中でも驚いたのが、2007年初頭のケースだ。日銀の政策決定会合の内容が、正式発表の前にNHKの速報で流された一件がある。この件は国会でも問題になった。

 その当時、シカゴ大学教授のアニール・カシャップ教授は、日本銀行の政策目標が恣意的であいまいなものであるために、市場はその政策の理由をまともに理解できず、リークの内容を尊重してしまう結果になると批判したことがある。この結果、リークの海の中に日銀の政策は漂流することになると。

 このカシャップ教授の指摘を、今回はそのまま適用はできない。なぜなら日銀の政策目標(=インフレ目標)は現段階では明白だからだ。ただしその政策目標を実現する政策手段について、市場に不透明感があるのは否定できない。この不透明感に乗じて、「市場関係者」が"リーク"を意図的に利用することは大いにありうる。それは"リーク"の内容が本当のものでも偽のものであっても関係はない。

 いずれにせよ、このような"リーク"を払拭するには、情報統制よりも、むしろ日本銀行が政策目標を堅持し、その実現のためには政策手段に制約がないこと、同時にその実現に意欲的に取り組むことが肝要である。
 

プロフィール

田中秀臣

上武大学ビジネス情報学部教授、経済学者。
1961年生まれ。早稲田大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。専門は日本経済思想史、日本経済論。主な著書に『AKB48の経済学』(朝日新聞出版社)『デフレ不況 日本銀行の大罪』(同)など多数。近著に『ご当地アイドルの経済学』(イースト新書)。

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