コラム

メタバースはインターネットのユートピアなのか、現実の悪夢なのか?

2021年11月26日(金)16時37分

アイスランドの反応

欧州におけるメタバースの評価は厳しいものが多いが、印刷技術とインターネットを合わせたよりもその影響は大きいという予測もある。そんな中、マーク・ザッカーバーグが10月末に長編プロモビデオを使って、いわゆるメタバースのビジョンを発表したのを受けて、アイスランドの観光協会はザッカーバーグのそっくりさんを起用して、Facebookの発表をからかうプロモーションビデオを公開した。これが大きな反響を生んでいる。ザッカーバーグのビデオと見比べてみよう。

The Metaverse and How We'll Build It Together -- Connect 2021


Introducing the Icelandverse


アイスランドのビデオでは、ザック・モスバーグソンという完璧なザッカーバーグのコピーが、おなじみの短い髪型、長袖のシャツ、メタのボスの完璧なボディランゲージのパロディで私たちを迎えてくれる。しかし、彼はVRの新世界を売り込もうとしているわけではなく、アイスランドの美しい風景を紹介しているだけだ。

アイスランドが観光客を誘致するためにユーモアを用いたのは今回が初めてではない。過去のビデオでは、アイスランドでハイヒールを履いてはいけない理由を、不機嫌な男性モデルを使って説明していたし、2017年には、アイスランド語の単語がどんどん発音できなくなる「世界一難しいカラオケ曲」がバイラルヒットした。

"Hello and welcome to this all-natural situation "と、ザッカーバーグのそっくりさんは最新のビデオの中で切り出した。「今日は、私たちが超スマートにならずに世界とのつながりを感じられる画期的なアプローチについてお話したいと思います」

このビデオでモスバーグソンは、「濡れている水」もあれば、「実際の眼で見ることのできる空」や「撫でることのできる火山石」もあると、温泉に入りながら雪のように白く塗られた顔で説明してくれる。アイスランドはメタバースではなく、"The Icelandverse "だとモスバーグソンは説明する。言い換えれば、そこは「バカげたヘッドセットなしで、強化された実際の現実 」なのだ。

Facebookは今、Metaと呼ばれ、この名前の変更には大きな計画がある。将来のEUの規制を緩和するため、FacebookはEU圏内で1万人を雇用する計画を発表している。その計画に懸念を示す専門家を尻目に、アイスランドは全く動じていない。マーク・ザッカーバーグの未来像を臆面もなく揶揄できるアイスランドの自然と文化は、今のところメタバースよりも圧倒的な現実なのである。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元カレ「超スター歌手」に激似で「もしや父親は...」と話題に

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story