最新記事

法からのぞく日本社会

東京五輪まであと4年、「受動喫煙防止」ルールはどうする?

2016年9月5日(月)15時50分
長嶺超輝(ライター)

<IOCは「たばこのない五輪」を掲げているが、日本には罰則付きのルールがなく、受動喫煙防止の法制化が遅れている。五輪開催に向け対処が迫られるが、果たして......>

 国際オリンピック委員会(IOC)は、「たばこのない五輪」をスローガンに掲げている。4年後に五輪の開催を控えた東京だが、街の小さな飲食店などでは、たばこを吸う人と吸わない人が同じ空間で食事していることが少なくない。

 WHO(国際保健機構)が策定した国際ルールである「たばこ規制枠組条約」には、世界178カ国が加盟しており、日本もそのひとつである。多くの加盟国がこの条約を守り、規制のひとつである罰則付きの受動喫煙防止法を制定済みだが、主要国の中で日本だけが、このルール作りを先送りしている。

 受動喫煙とは、火のついたたばこの先から絶えず出てくる副流煙を、非喫煙者が吸うこと。喫煙者と同等の健康リスクを負いかねないことが問題となっており、国立がん研究センターを中心とする研究班が8月31日、受動喫煙の肺がんリスクは受動喫煙がない人の約1.3倍になると発表したばかりだ。受動喫煙の問題についてどのように対処するのか、東京はこれ以上、態度を曖昧にすることはできないだろう。

 IOCは、1988年(冬季カルガリー・夏季ソウル大会)以降、五輪会場の全面禁煙化を進めることに加え、たばこ業者が五輪スポンサーに付くことを拒否し続けてきた。さらに、会場の中だけでなく、開催都市の施設全体を禁煙化することも推し進めている。2004年(夏季アテネ大会)以降は全ての大会で、開催国の法律や州法、開催都市の条例において、罰則付きの受動喫煙防止ルールが定められている。

nagamine160905_zu.jpg

 2020年の東京も、その「受動喫煙防止ルール」のリレーのバトンを引き継ぐのかどうか、IOCから遠回しの「外圧」をかけられている。東京としては、国際的な空気を読まざるをえないように思える。

地方レベルでは罰則付き受動喫煙防止条例がある

 日本は国家レベルで、2003年に制定された健康増進法の25条が、役所や体育館、学校や病院、劇場や飲食店など、多数の人が利用する施設の管理者に、全面禁煙か完全分煙などの形で、利用者の受動喫煙を防止するよう定めている。また、2015年の改正で追加された労働安全衛生法 68条の2では、人を雇っている会社の経営者に向けて、職場での受動喫煙の防止を定めている。

 ただし、いずれも「努力義務」にとどまっており、違反しても罰則はない。

 地方レベルでは、神奈川県と兵庫県では、すでに罰則付きの受動喫煙防止条例を定めている。仮に2020年に行われるのが「横浜オリンピック」や「神戸オリンピック」だったら、IOCも納得だったはずである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送-イスラエル、ガザ南部で軍事活動を一時停止 支

ワールド

中国は台湾「排除」を国家の大義と認識、頼総統が士官

ワールド

米候補者討論会でマイク消音活用、主催CNNが方針 

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「珍しい」とされる理由

  • 2

    FRBの利下げ開始は後ずれしない~円安局面は終焉へ~

  • 3

    顔も服も「若かりし頃のマドンナ」そのもの...マドンナの娘ローデス・レオン、驚きのボディコン姿

  • 4

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開する…

  • 5

    米モデル、娘との水着ツーショット写真が「性的すぎ…

  • 6

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 7

    なぜ日本語は漢字を捨てなかったのか?...『万葉集』…

  • 8

    メーガン妃「ご愛用ブランド」がイギリス王室で愛さ…

  • 9

    水上スキーに巨大サメが繰り返し「体当たり」の恐怖…

  • 10

    サメに脚をかまれた16歳少年の痛々しい傷跡...素手で…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 5

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 6

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 7

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 8

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 9

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 10

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中